チリチリとちらつくように、硝子越しにランプの中の蝋燭が揺れ、
冷えた暗い部屋のなかで、机の上を照らしている。
椅子に座りペンを握る男は、本を目前にしている。
何を書くのか逡巡している。

しばらくそのまま固まったようにつらつらと過去へ思いを馳せていたのだろうが、
結局まとまらず、思考することに飽きてしまったのか
ペンを机の上にほおり投げる。

ペンがコツリと落ちた衝撃で、はらりと一片の紙が落ちた。
今日、失敗した『実験対象』が持っていた写真である。
どうやら荷物に紛れていたようで、先ほどカバンから取り出して
机の上に置いたものだった。

椅子に座ったまま、落ちた写真を拾うと、
家族で一軒の家の前にて写っている写真であった。

男はしばらくそれを眺めたのち、
思いついたように筆を取り、次なるプランについて本にまとめはじめた。







***　-- Day ***

灯りや温度、湿度共に調整されているのか、
非常に過ごしやすい環境であるが、その部屋には窓はなく
ただ上階へのぼる階段のみが備え付けられていた。

アランは目の前のモノを材料として、手製のドールを造っていた。
皮をそっと剥がしたり、
骨を組み合わせたり、縫い合わせたり、
どこかで購入した毛皮を張り合わせたりすることは
彼にとって得意とすることなのだ。

造られたドールは、ふわふわとした毛皮の
とある生物を模したものだった。
30代後半の成人男性、30代そこそこの成人女性、10に満たない子どもの身体と
魔物の毛皮をふんだん使った力作。
最後に額にあたる部分に、魔力のこもった宝石を融合させる。
これを媒体にして、ドールに材料の血縁者の魂を封じる。
そこで眠っている幼児の魂を入れるのだ。
面白い試みではないか。

（楽しみだなあ…）

嬉しそうな笑みは純粋で、無邪気なものであった。

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*** 1st Day ***

温かく調節された、明るい部屋で
ソファに寝ているアランの周りにまとわりつくようにして、
本を読む邪魔をしているのは、所謂カーバンクルといわれる幻獣の姿に
似た彼のエンブリオである。
ドールと呼ばれているように、やや人形めいた動きをするが
じっとしていればその姿は生きている幻獣そのもののように見える。
ときおりチカチカと額の宝石が光っている他、
意志の伝達方法はないようである。

アランも邪険な言葉を吐くものの、
それなりの愛着があるのか、エンブリオだからであろうか、
読書を中断し、まとわりつくドールの頭を撫でる。
愛らしい容貌で、目をぎゅっと閉じ、宝石を光らせる。

「あ。」

ドールがアランの腹の上にとび乗った瞬間、
その衝撃でアランは、手に持っていた本を落としそうになる。
本の栞代わりにしていた紙がはらりと落ちた。

落ちた紙は写真のようだった。
30代の男性と女性、10歳に満たない少年。
そして女性の腕に抱かれた2つか3つの子ども。
一軒の自宅であろうか、家の前で笑顔で取った、穏やかで幸せそうな写真である。

アランの腹から落とされたドールは、
その写真を踏みつけて、可愛らしくアランの手に顔を擦りつけた。

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