「……」

サイは妙な感覚を覚えていた。
失われた記憶の何かを取り戻せそうな、ただ何か別の違和感なのか。
確信ではなく疑惑の様な何か。
それは自身が今のような姿になる事になったそれに関係しているような。
そんな違和感の元となる疑問に（勿論物理的に）足らない頭を回しては見る。
……が、欠落した脳の働きがそれを阻害していた。
答えにたどり着かない思考に注意を払っていたせいか逃げる2人を追う中で若干遅れた。
隊列の乱れは場合によっては致命的な欠陥となり得る。
先行するイヨル、その後に控えるリドレー。
本来ならそのすぐ後にサイが居るべき場面だがその遅れで最後尾のミチエとそう違いない位置を走っている。

「また体調でも悪いのか？
　邪魔になる様なら後ろの隊に合流しろ」

ミチエからそう声が掛けられた。
そこで漸く自分が遅れて居た事に気付いたのかサイは俯き気味だった顔を上げ
すまんすまんとでも言うかの様にその思考を止め視線を前方へと移した。

「少し考え事をしちょっただけだわ」

「無駄な事を……」

それは馬鹿にしているのかサイの脳の事を知っての事かは分からない。
どちらにせよサイはその言葉に対して特に思う事も無いかのように、
そして自分の頭では答えが出ない疑問を誰かにかわりに考えさせようとでも思ったのか、

「そこそこ強ぇ奴らだったが、あいつらエンブリオの力を使ってねぇな」

そう残して隊列を正常のモノへと移すべくその速度を上げ先へと進んだ。