『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.20.12:53、とある艦内にて――


　空になったボトルを捨てられなかった。
　博士の止めの一言で感情は一気に冷めてしまったが、男性型として
設定された疑似的感情は複雑な思いと疑問を抱いていた。

　もし、俺が人間だったのならば、博士を好きになるのだろうか。
　もしや、博士はロボットの男性が好きなのではないか？
　それ以前の問題がある。ロボットでも生物と恋愛が出来るのか。

　考えは巡り巡って、全然纏まらなかった。


「うふふふ♪」
　頭に衝撃があった。ぽちが乗ったのである。
「嫌な笑い方だな。何だよ」
「いやぁ、悩みがあるってって素晴らしい。あれでしょ？　あれでしょ？
人間で言う『恋煩い』ってやつだよ〜！」
「鯉は辛い？　何だよそれ？」
　ぽちは頭から飛び降りると正面に回って、目を線に変えた。
やや頬を赤くしている。
「誤魔化さないの。タイプは異なるとはいえ、僕等は同じロボット同士だ。
悩み事は包み隠さず相談していいよぉ〜」
　ぽちは翼で肩を叩く。
「誤魔化すも何も……鯉は辛いって何だ？　俺の辞書にはないぞ。
俺は池の中の鯉と言いたいのか？」
　ぽちは違うと翼を振った。
「君ってば本当にお馬鹿なんだか、わざとなんだか、どっちだか判らないね。
ま、今はお馬鹿さんにしておきましょう」
　ぽちは翼で空のボトルを指した。
「君、博士と別れてから、ずっと博士のことしか頭に無いんじゃないのかい？」
　11時にブリーフィングがあった以外、確かに博士のことを考えているが、
ずっと考えていたことはない。
「ずっとでは無いが……博士のことが気になってるのは確かだな」
　ぱあっと紙吹雪の立体映像が散った。無駄に派手なエネルギー消費である。
「それは恋だよ！」
「鯉？　池にいる魚？」
「んもぅ〜、とぼけちゃって。君、博士を好きになったんだね」
「俺が？　博士を好きに？」
　その瞬間、思考が停止した。
「あれ？　どうしちゃったの？」
　ぽちの言葉も届かなかった。
　これが誰かを好きになるという疑似的感情なのだろうか。ただの
疑問と、疑似的感情が複雑に絡まっただけの、答えのでない思考は
恋愛というものなのか。

　どれほどの間が開いたのか、俺は頬に衝撃を受けて思考が回復した。
　目の前にマスター……ショウ＝ツルギノが居た。どうやら。
マスターの平手打ちを食らったらしい。
「目は覚めたか？　出撃する時間だ」

落ち込む。