渋る私の前で、坂本はまるで街頭で呼び込みをする営業のように、軽いノリでポケットからネクターを出してみせた。
容貌相まって傍から見ればうさんくさいストリートマジシャンだ。

今までポケットに入っていたとは思えない程瑞々しい花が、何てことは無い素振りで私に差し出される。

私は訝しげにそれを受け取った。渡された花はまだ固く閉じた蕾で、花は咲いていない。
何が起こるのだろう、と坂本の方を見ていた時。

いつの間に居たんだろう、坂本の少し後ろから腐肉の声がかかる。
ぼそぼそとテンションの低いただの一声に、坂本はワントーン声を高くして腐肉の方へと駆けて行った。


…………ん？　あれ。　契約の話はどうなったんだ？

あまりにも坂本の素振りが適当に見えたのと、私がさして乗り気じゃなかったのも相まって気付くのが遅れた。

まさかこれで完了って事もあるまい。ただ花を手渡しただけじゃないか。
こんなもので契約完了でとんでもパワーが身に付くなんて大仰な事、逆に不安になるだろうに。

結局、契約がどういう物なのかも何だかうやむやになったが、坂本に問いただす気にはならなかった。
戦うだなんて危ない真似をしたいわけじゃないし、殴り合いの喧嘩すら17年間無関係だった私には向いてもいないだろう。

最後までうさんくささの抜けない怪しい出し物を見た気分で、軽い溜息をつく私の視界にふと、鮮やかな赤色が入り込む。

落ち込む。