「――で、何やってるわけ？」
「？
　ご覧の通りだけど。」
倒した兵士達を集め、
【私達は変態です☆
　羞恥・ドＭプレイ中なので縄を解かないで下さい☆】
そう書かれた紙を貼りながら、
全裸の兵士達を亀甲縛りにしていく魅月を見て、
アルネスは遠い目になりながらも、
魅月に問いかける。
それに対する魅月は、
一体何を言っているのか理解できないとばかりに、
首を傾げながら見たら分かるでしょといわんばかりに、
兵士達を指さす。
「――やめたげてよう！？」
余りにも余りな仕打ちに、
思わず叫ぶアルネスに、
諭すように魅月は告げる。
「――勝手にきれた上に、
　乙女相手に半裸で突撃してきた男達への罰としたら、
　当然だと思うのだけど。
　後、反応がいらついたから。
　……弁解の余地も再考の余地もないわ。
　当然で妥当だと思うのだけど？」
「いや、でも、私達も悪い――」
「こんな人が来るような場所で水浴びして
　そんな覚悟がない方が悪いのよ。
　――後は吊るして完了ね。」
そんな二人の声を聴きながら、
縛られた兵士の一人は思い出す。
どうしてこんな事になったのか――
そして、
何故あの時こんな行動を起こしてしまったのかを――

――兵士達の配属場所は様々である。
その中でも前線の兵士、
力の弱い兵士は脅威度の少ない場所へと配置される。
草原や水辺等の周辺がその配置場所となる。
俺達４人の所属する部隊もそうであり、
大体４人でつるんで行動している。
――何故４人でつるんで行動していたのかというと、
俺達の趣味や兵士になって、
今いる部隊に配属を願った理由が同じだったからである。
俺達は川が大好きだ。
ブラックバスを釣りに良く行くし、
何よりも水浴びが大好きだ。
だから、この部隊への配属を願った。
入隊した理由の一つも、
仕事をしながら、
釣りと水浴びを存分に堪能できるからというのは勿論ある。
だが、
それ以上に――
今から思えば、
俺達はとても利己的だったと思う。
何故なら、
俺達は――
“王がネクターの独占を始めてから兵士になった”からだ。
王が独占した以上、
悠々自適に、
自分のやりたい事をやって暮らす為には、
どうすればいい？
俺達は誰しも金持ちでもなければ、
地位がある訳でもない。
ただの一般人だ。
王の独占が始まり、
俺達の生活が厳しくなり、
俺達はこのままでいる事は出来なくなった。
だが、
同時に俺達は知っていた。
自分達だけが助かる術を。
自分達だけが――
今までの、
いや、仕事さえしっかりすれば、
今まで以上の生活ができる事を。
だから、俺達は兵士になった。
虐げられる側から、
虐げる側へ。
それだけで、
俺達の平穏は、
幸せな日々は保てるから。
つまりは――
俺達は大多数の人間を裏切った人間でもある。
――最も、
そんな事を思ったのは、
倒されて、
罰を受けようとしてからなのだから、
どうしょうもなく救えない。
――そんな俺達は、
衣服を脱いで水着姿で、
いつものように水浴びをしていた。
「ふぅ……」
水浴びというのはとても気持ちがいい。
綺麗好きな俺達の汚れを落とし、
俺達の魅力を引き出してくれるのだから。
本当は裸が良かったのだが、
誰かが来たら恥ずかしい。
だからこその水着である。
まぁ……最も、この一時は至福で、
何物にも邪魔されてはならない――
邪魔する奴は即抹殺。
だから着なくてもいいのだが、
用心には用心をという奴である。
そうとまで考えていた。
そんな中、不意に足音が俺達の耳へと届く。
振り向いてみれば、
斧を担いだ女を先頭に、
小さな少女にぬいぐるみ。
そして――
水兵服のような奇妙な黒い衣装に身を包んだ、
妙な威圧感を放つ女が其処に居た。
その姿を見て……
俺達は激昂した。
俺達が優雅に過ごすこの一時に現れた不愉快な侵入者。
見慣れぬ姿は間違いなく、
俺達とは異質で敵だと感じさせられた。
だから――
「……何者だッ！」
言葉をもって牽制する。
だが――
「ただの通りすがりだから、
　気にせず通してくれれば別にいいわ。」
さらりとかわして、
俺達を無視してどこかにいこうとする黒い衣服の女。
他の三人はいいのかなとでもいうように所在なさげな様子を見せた後、
追従しようとした。
その様子が酷くたまらなく不愉快だった。
まるで俺達等眼中にないとでもいいたげだったからだ。
とんでもない。
俺達の美しさを見ても興味がないだなんて、と。
だから――
「き……、
　貴様あぁぁ！！
　兵士の休息を狙うとは卑怯なッ！！
　防具が無くともそのような輩に負けはしないッ！！
　うおおおぉぉぉぉぉぉッ！！」
手近に置いてあった剣を手に取り、
俺達の前に現れた４人へと襲いかかった。
「――闘う気無いのだけど。
　防具着る時間あるから、
　さっさと着てきたら？」
「いや、その……
　見てないから、
　うん！
　何もみてないから！」
「ごはんいがいにきょうみはない。」
「えっと、落ち着くウサ！
　そんなつもりはないウサ〜！」
そんな俺達に対し、
色々いって誤魔化そうとする４人。
だが、
俺達は断じて許す気はなかった。
奴等の罪は３つある。
俺達の至福の時間を邪魔した罪。
俺達の身体を見ても無関心だった罪。
そして――何事もなかったように通過しようとした罪。
「鬼畜の類いになぞ負けるものかあぁッ！！」
俺達は激昂した。
感情の高ぶるままに剣を振り上げ、
「こなくそおおぉぉぉ！！！！！ 」
剣を叩きつける。
そんな俺達の様子を見て、
慣れたように連携を取る相手。
流石に怒りに身を任せた俺達と、
戦い慣れた相手では、話にならない程に、
徐々に劣勢へと追い込まれていく。
「浴び……たい……」
そう言いながら水着を散らし、
一人、また一人と倒れていく仲間達。
しかも、
気がついたら水着がボロボロである。
思わず、
「ああぁぁあああ貴重な水着がああぁぁぁ！！！」
と叫んでしまった俺は悪くないと思う。
攻撃や魔法を受けた訳ではないのだが……
一体誰がどうやってと見渡すと、
黒い服の女がニヤニヤと笑っている。
その時俺は確信した。
――この女の仕業である、と。
攻撃しようにも、剣が届かない。
手ごたえはあるのだが、
女には届かない。
この女何かやってやがる。
何をやっているのかまでは分からないが。
ただ、
その紅い瞳を覗きこんでゾッとした。
背筋を走る怖気、
その吸い込まれそうな瞳はまるで死そのもののようで、
自分が死に向かって吸い込まれる感覚に似て、
手足が凍りつく。
「さぁ……
　――終わりにしましょうか。」
女が指を鳴らす。
凍りついた身体に何かが纏わりつき、
魂を蝕んでいく。
やめてくれ、という叫びは、
俺の口から出る事はなく、
虚空へと消えてゆく。
ああ。全く――
なんて奴等だ。
なんてついていない。
ただの女子供だと思ったら、
とんでもない。
どいつもこいつもとんでもない力をもっているし、
俺の目の前にいる女は、
間違いなく人の姿をした死神――化け物だ。
「くそ……運のいいやつらめ……」
そんな奴を味方につけた奴等は運がいい。
そして、それが俺が最後に言葉に出来た事。
――そして、
俺は己達の愚かさを知った。
俺達のしでかした事、
考えた事、きっとそのつけが俺達に回ってきたのだと。
ああ、くそったれ。
もっと早くに気付いていれば、
こんな事には――
そして、俺の意識は其処で途絶えた。

「これでよし。と。」
「……。
　えっと。
　これずっとこのまま……？」
「？
　縄に切れ目いれてあるから、
　そのうち解けるんじゃない？
　いつになるかは知らないけど。」
兵士達を吊し上げ、
満足そうに頷く魅月に、
疲れた様子でアルネスはため息をつく。
「それじゃ、先を急ぎましょうか。
　……ああ、
　一応前に戦った海象の肉が余ってるから、
　それで何か作ろうと思ってるのだけど、
　他にも食糧とってきてくれないかしら？
　飽きもあるだろうし、
　エモさんに下手したら全部取られるから。
　――流石に人肉は嫌でしょ？」
「当たり前だよ！？
　流石に人肉食べるほどの度胸ないよ私！？
　っていうか、
　そこの兵士さん達の事なら尚更嫌だからね！？
　え、魅月さんって食べる人？」
「少なくともエモさんは食べる人ね。
　私に関しては……
　状況次第じゃない？
　他に食べ物あれば基本的に食べないし、
　無かったら最悪……
　自分の肉を食べざるを得ない事もあるでしょうし。
　正味どうでもいいわね。
　まぁ、避けれるなら避けるに越したことはないって所かしら。」
「……人間として、
　その一線はなるべく超えたらいけないと思うんだ……」
常識人は私だけかといいたげに、
頭を抱えるアルネスに、
可愛いわねといいたげに魅月は微笑み、
さて、と言わんばかりに手を軽くたたき話を変えた。
「――さて、それじゃ深入りしないうちに、
　他の場所に行きましょうか。
　水辺に来た時には海老と海象が大量だったから、
　エモさんがはしゃいでいるのだけど、
　――正直あの敵は強かったわ。
　もっと厄介なのがでないうちに……」
そんな魅月の話を聞いて思い出したかのように、
アルネスは顔を上げ。
「……あ……
　それなんだけど、
　もうエモさんが先行して……」
「……キャンプ場所を決めてしまって、
　必然的にこの道を進むしかないのかしら？」
「うん。」
『……』
お互い顔を見合わせる。
魅月の話を聞いてまずいと思って顔を青ざめさせるアルネスと、
手遅れだったと苦笑する魅月。
「ぶっちゃけ……
　どれくらい危険だって魅月さんは思ってる？」
「そうね。
　全滅の可能性も高いんじゃないかしら。
　元の世界ならともかく、
　異世界に来た時、
　その異世界のルールに引きずられる傾向があるわ。
　で、私の制約としては、
　“霊のストックが無尽蔵とはいかなくなる”
　といった所ね。
　時間経過で回復するし、
　ストックが無くなるのは悪くない事なのだけど、
　ストックが無いという事は私に戦闘力が無くなるに等しいわ。
　それにもちろん上限もある。
　――ごり押しは無理ね。」
「……全滅したら……」
「そうね。
　アルネスさんだけは死ぬ可能性あるわね。
　ペルチェさんは多分裁縫でなんとかなると思うし、
　エモさんは勝手に復活すると思うから。」
『……』
沈黙の時が流れる。
どうしよう、と途方に暮れるアルネスに、
同情の眼差しを向ける魅月は、
やがて、
諦めたように一つ息を吐き――
「諦めたら？」
「諦めれないよ！？
　一つしかない命諦めれないから！？
　まだ結婚すらしてないのに！」
「えー。」
「えー。
　じゃないよ！？
　全く……」
情け容赦のない言葉を浴びせる魅月に、
やっぱり最低だよこの人と内心毒づきつつ、
ぶつぶつ文句をいうアルネスに、
魅月はにっこりと微笑かけて、
「ま、トドメ刺される前に私が離脱の手助けしてあげる。
　手遅れじゃなければ、
　私がある程度延命は可能だから、
　その間にペルチェさんの修繕をして……
　その後に、治療してもらう形かしらね。
　ま、それ余程酷い怪我でもない限り、
　応急手当と魂をとどめておけばなんとかなるでしょ？」
「うん。まぁ……
　それなら大丈夫……なのかな？
　まぁ、やられないに越したことはないけど。」
「ま、勝てるなら越したことはないんだけど……
　考えられる事は考えておかないとね。
　あの子が張り切ってるなら、
　敵はいつも以上に多いわよ？」
「あー……
　それもそっか……
　……せめて食い気で盲目にならなければ……」
「無理な話よ。」
「デスヨネー。」
もしもの時どうするのかしっかり言って、
大丈夫なのだと諭す。
それを聞いてほっとしたように胸をなでおろすアルネスは、
気分が落ち着いたのか、
その顔に笑顔が戻った。
それに満足そうに魅月は頷き
「――所で一つ聞いておきたいのだけど？」
小さく首を傾げて微笑みかけた。
それをみて、なんだろう？
とアルネスはいぶかしみながらも、
「何？
　急に……なんか嫌な予感するけど気のせい？」
聞き返してしまった。
途端にニヤリとした笑みへと変わり、
「――そんな装備で大丈夫？」
「えっ？
　大丈夫だよ、
　問題ない。
　いや、いつもこれだし。」
「そ、なら良いのだけどね。
　じゃ、私は料理の用意があるから。」
アルネスの答えに首を振って背を向ける。
嫌な予感が更に高まるアルネスは勘付いた。
……このやり取りに、
一体何の意味があったのか聞きださなければならない、と。
「……で、このやり取りに一体何の意味が……」
「え？
　ああ。
　そうね……
　大丈夫だ、問題ないが死亡フラグで、
　一番良いのを頼むが生存フラグなだけよ。」
「ちょ！？
　私思いっきり死亡フラグ踏んだんだけどォォォ！？」
――アルネスの悲鳴が辺りに響いたのは言うまでもない。

いくら暇だったからとはいえ、あれほど種族性格性質取り取りな連中を思い付ける程、俺は想像力豊かじゃない。

深く考えずに人型を取ると必ずこの姿になるから、擬態とか他人の姿を模しているとかではなくて、この映っている男が自分なのは確かだろう。…我ながら派手な色彩の癖に不景気なツラした野郎だ。

今一、ぴんとこないようだが。無理矢理納得したらしい。

土蜘蛛の知識は取り戻したが、個人で関わった思い出はまだ。
今の彼にとって当主はあくまで[当主様]であり、[扱いの面倒臭いおっさん]ではないのだ。

ねこねこ

>うす味にしてくれ。

>梳かすついでにノミも取ってくれ。

>風呂は要らん。

>ニャー。