『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.20.10:35、とある書庫にて――


　ぽちは俺の頭に飛び乗った。飛ぶよりもエネルギー消費が少ないからと、
頭の上に乗ってくることがある。俺の頭に多少の負荷がかかるのだが、
それは気にかけてないらしい。

「そういや君の『核(コア)』に焼き付いた記憶があるって言うけど、
どんな記憶なの？」
　あの日、大破からの蘇生から、深く考えないようにしていた。焼き付いた記憶の
時系列がよく判らないからだ。
　俺はロボットだから、記憶の大半が消えたのなら、全て消えてしまった方が
好都合なのだが、俺に宿された『核(コア)』に一部だけ記憶が残ってしまった。
記憶のない俺にはその記憶がどの時点のものか、それが何を意味するのか
よく判らなかった。
「俺は……ディバイダーと対峙してるんだよな。生身で。崩壊の始まった
建物……舞台か展望台か？　そこで……うーん、火災が発生してるのかな？
視界が橙の光で照らされてるんだ」
「ふーん。君は大破直前にディバイダーと戦闘したのかな。
それで焼き付いちゃったのかな？」
　大破とぽちは普通に使っているが、自分の大破なんて考えたくない。
その場にいたであろうマスターに無様な姿を晒したのだ。情けない。
「多分、そうじゃないかと思うんだけど……何か引っ掛かるんだよなぁ」
　焼き付かなければ混乱することもなかった。その焼き付いた記憶の
幾つかに妙な違和感を感じるのだ。
「俺の記憶の筈なのに……妙な感じだ。ディバイダーと対峙していたのって
本当に俺だったのかな？」
「何を言ってるんだい。君の記憶なら、それは君しかないじゃないか」
「そうだよな。これは俺の記憶なんだよな」
「記憶をなくしちゃってるから、違和感を感じてるだけだよ。記憶の無い君も、
記憶を無くす前の君も同一人物だから、深く考えこまない方がいいよ。
混乱の果てにエラー起こして、またまた博士のお世話になるだけだよ」
　それは避けたかった。博士が嫌なのではなく、欠陥品とされてしまうのが
恐ろしいのだ。今はまだ欠陥品になりたくない。
「納得いかないんだよなぁ。けど、仕方がないか。記憶のことは……
無理かもしれないけど、マスターの機嫌を直してもらって、直接聞くことにしよう」
「それがいいよ。ツルギが何をしでかしたのか知らないけど……頑張って。
戦果を上げれば、いつかはマスターの機嫌も直るんじゃないかな」