「おまえは、おまえの初めて契約したエンブリオが『ドール』である理由は、何だと思うかね？」

理由があるとも、今まで考えた事はなかった。どうせお膳立ての一環だろう、そう思っていたから。

「おまえが何かしらしたんじゃなくて？」
「まさか。私は妖精の類に嫌われていると、何度言えば分かる？　現に、この身体を得るまではおまえを通してしかメルンテーゼに影響を及ぼし得なかったろうに」

ということは。
こいつは、エンブリオとの契約を完全に僕に任せていた。何の知識もない異世界人の僕にだ。

「……おまえは、僕が契約に失敗したらどうするつもりだった？」
「おまえは既に、何度も敵の前に斃れているだろう？　同じことだよ。私が救う。私のために」

私の見るもののために。
そう言い切られれば、もはや怒りすら湧かない。どこまでも利己の代物なのだ、この龍の行いは。
そしてそれに選ばれた僕のすることもまた同じ。そう考えれば、いっそ笑いたくなる。

「だがおまえは契約を成し遂げた。……私は、それは――おまえが求めるものが、実にはっきりしていたからだと。そう考えている」
「求めるもの、ねえ。そんなに、何かを切に求めなきゃいけないほど困っていた覚えはないけど」
「いいや」

おまえが欲しかったのは己への忠実さだよ。
こいつはそう断ずるのだ。自分を語るような、誰よりも分かったような口振りで。

「だからおまえの望んだ通り、おまえの契約したエンブリオは『傀儡（ドール）』だった。否、そうなったと言うべきかな」
「そこらに溢れてるエンブリオを一体選んだだけって、僕は思っているけどね」
「そうだな、では試してみようか？　おまえのイメージに、エンブリオがどこまで従い得るかということを」

ドールがひょいと頭から下りた。先まで与えていたネクターは、まだ僅かにその手の中にあり。

「これまでで、既にこのドールへ十分なネクターは与えられたはずだ。そいつを使う、お得意の『戦術』でも披露してみせるがいい」
「こいつが僕のイメージ通りに動くって？」
「動く、だけでは留まらんだろうな。サイズや内部機構まで、おまえが考えればそれに等しくなろう。ドールとはそういう性質の権化だ」
「ふうん」

兵舎から建物を抜け、色とりどりの花咲き乱れる庭園へ。番人がいるという場所には、未だしばらくの距離がある。
この龍の鼻を明かせれば募る苛立ちも多少解消されるかと、そう懸案し。

「考えてみるよ。せいぜい、期待して待っていな」

使えそうなものと見るや、素早く取って懐へ入れてしまう。