【１４回日記の続きです】

暗い森の中を、わたしは一人で歩き続けていた。
いつも以上に、氷みたいに感じる冷たい風。そんな風に感じたのは、底知れない不安のせいだったのだろうか。
木々の間から漏れる月光だけが、足元の道なき道を照らしてくれていた。
――きっと、この方向で合ってる筈。
何度も自分の心の中でそんな言葉を繰り返し思い浮かべながら、私は歩を進めていた。
――大丈夫。逃げ足には自信があるんだ。
何かが現れても、逃げ切るだけの自信はあった。そんな油断が、幼い私を森の深部まで進ませてしまったのだ。



そうやって歩き続けて。
気づけば、見知らぬ木々の間に私は取り残されていた。
そうなることは、もっと早くに気付くべきだったのに。
幼いわたしは夜の森の中で一人、迷ったのだ。

黒に塗りたくられた視界。耳に届いてくるのは、風が草木を揺らす音だけだ。
何とか道を探して、引き返そう。そう思った矢先、ふと。それまでに聞くことの無かった音が近場から聞こえてきた。
ぱちぱち、と何かの弾けるような、しかし静かで心休まる音。
焚き火の音だ。
それを理解するまでにそう時間はかからなかったし、わたしの凍えきった身体は自然とその音の聞こえる方向へと進んでいた。
人が居るかもしれない。そんな期待を胸に、わたしは歩を進めて。
近づいてくる焚き火の音。視界を照らす明かり。

ようやくこの森の中で誰かに会える。助けて貰える。そう思った矢先に。
後頭部に走る、重い衝撃と鋭い痛み。
「メスのダークエルフか……こいつは、運がいい。まだ子供で小さいが、肉の質は変わらねェ」
最後に視界に映ったのは、ぼんやりと暗闇の中に浮かぶ焚き火と、それを囲む異形の人影だった。




つづく。

冗談交じりに勧めてくる。点検する機会が滅多になかったので、少し心配だったらしい。

ぎゅっと手を握ってくる金狐である。

急に後ろから声をかけてきたのは、年端も行かないような女の子の姿をした子だ。