もふもふってあるじゃない？ほら、ふっくらとした質感で心地いい感触でふかふかしたやつ。あれ、大好きなの。

　
アタシの世界だともふもふしたものってね、まんまるとしたひよこ鳥の羽毛とか、真っ白な雪うさぎの毛とか、自然の動物ぐらいしかもふもふした触感を持っていなかったの。でもこっちのメルンテーゼって凄い所なのね！お店で普通にもふもふしたものが売られているんだもの。何て言うのかしら、ええと…クッションっていうやつ？これ凄くもふもふしてるわよねぇ…触るとやさしい肌触りだし、ぎゅって抱きしめてもふわってすぐに元の大きさに戻るし、柔らかくていい匂いだし…。

　はぁ……あったかくて気持ちいいなぁ……もふもふ………。

　……………。

　…………。

　……。

　…。

　…ん、誰なの？アタシがクッションで気持ちよくもふもふしてるのに邪魔する人は？

　なんだ、このお店の店長さんね。何か用かしら？…えっ、クッションの代金？どうしてお店の中でもふもふしてただけなのに、クッションのお金を払わなくちゃいけないのよ？

　…え？よだれ？よだれが一体どうしたっていうのよ。それがクッションの代金とどういう関係が―――あっ。

　店長の後ろにあった鏡と目が合って、鏡に写ったアタシの姿を見てみると、片方の頬を赤くして、よだれの跡が残っていた。
　抱きしめていたクッションへ視線を落とすと、ふかふかしていた表面にべったりと自分のよだれがついている。

　え、えっと……いつの間にか寝ちゃってたのね…そ、そう…

　おそるおそる店長の顔を伺うと、笑顔を浮かべながらアタシを見つめている。にこにこしているけど、こめかみに血管を浮き上がらせているところ、結構怒っているらしい。
　アタシはひきつった笑みで店長に向き直ると、深々と頭を下げた。

　あ、あはは…あははは………………ごめんなさい。このクッション、是非とも買わせてもらうわ