『……60点』

執事が笑顔で告げたことば。

「……は？」

作り上げた微笑みが僅かに引き攣り、呆気に取られた微かな声が唇から落ちる。
喉元の皮膚の下では、ようやく花が蠢くのを止めた。
頬からすべり落ちた手が、差し出された杖を受け取る。
何やら色々言っている執事の言葉が右から左へ通り抜け、さっぱり頭に入ってこない。

（60点…ってなに？今のわたしの態度のこと？60点？どこからどう見ても100点じゃない。何なのこの男？馬鹿なの？目ェ見えてないんじゃないの？）

執事に言われた言葉に加え、呪いに対する怒りだとか、素を出せず気を抜けないストレスだとか。
積もった負の感情が一緒くたになって思わずキレてしまいそうなのを、差し出された毛布を握りしめることで何とかやり過ごす。

「分かりました。では、お言葉に甘えて、お先に休ませて頂きますね。お休みなさい。」

丁寧な声音ながら一息で言いきって、とっとと毛布に包まる。
勿論、執事に思い切り背を向けて。

――翌日、新しい武器を試してみる。

「……ヒューさん、ちょっと持ち手の手触りが…」
「あ、手触りは良くなったんですけど……形状をもう少し手に合うように…」
「あの、ここ少し、汚れてません？」

使用感の感想という名の文句をつけ、地味な嫌がらせ。
一度に言えば良いものをわざわざ一か所ずつ、姑のように。
しかしこの執事嫌な顔一つせず作業に応じるものだからちっとも面白くない。
作業を行う執事の背中をじっと見詰めながら考えこむ。

（イエスばっかりで面白くない……どうにかしてこの顔、歪めることは出来ないかしら？）

目的が、やや変わった。