スポランジウム！！

キノコのモンスター、マタンゴから放たれる胞子がセシルを包む。
大量に放たれる胞子はなかなかに避けづらく、毒や麻痺、麻薬にも似た幻覚作用を齎す。

「セシル！」

レイの声が、遠く、遠くに聞こえる。



　　「やめ・・・セン、セ、ぇ・・・！」

　　あの時の記憶が、蘇る。
　　そして目の前にはあの男が。
　　飄々とした面、厳しくも愉悦を秘めたその眼は狂気に彩られ、クロンを見つめていた。

　　逃げるクロン。
　　震える手を引き寄せ、キアはクロンを自分の方へと――――間に合わない！！


　　ガッ


　　捕まるクロン、締まる器官。持ち上がる体、暴れる手足。

　　「貴様クロンを離せ・・・！」

　　キアは体術しかできない、爪を振るい、脚を蹴りあげることしかできない。
　　無力で、相手の剣の一振りで後ろに弾かれる。
　　既にもう一人の従者は倒れ、意識がない。
　　キアも切れた腹を抑えるが出血が多く、目の前が霞んでいた。
　　泡を吹くクロンに手を伸ばす。

　　「カ、ッハ・・・」

　　男は剣を引く。後ろへ。そして力を込めて・・・前へ突き出す。

　　「やめッ―――――


　　ザシュッ・・・


　　「！！！・・・ぁ、ぁぁ・・・ッ」


　　血、血、血。

　　刺した側から溢れ、噴き出す血が男を、キアを染めていく。

　　ドサッ、

　　ボロ雑巾のように捨てられるクロン。

　　息をしようにも血で出来ず、動くことで傷口が開き、更に出血を増やしていく。
　　クロンの眼はだんだんと力を失い、・・・昏くなった。
　　涙を一筋、頬を濡らして。


そして男は自分の目の前に。
何かを言っている、何かを言っている。

何？

いや聞かなくていい、倒さなければ。

この男はいてはいけない。

自分の欲だけで自分たちを利用し弄ぶこの男だけはいてはいけない。

ボクは、手に持っている自分の武器を、振るう。

男は避ける、笑い声が耳に響く。

耳障りだ、・・・倒さなければ！！




セシルの眼は完全にレイを敵と見ていた。
静止の声もセシルには耳障りな笑い声にしか聞こえていなかった。

レイを護るように闇が溢れ、セシルの鞭を止めた。
まだ敵は残っている。増援すら着ている始末だ。

闇はセシルの目の前で姿を成し始める。

闇がセシルの心を惑わせ、敵へとその鞭を仕向けようとする。
レイもまた必死に立ち上がり、戦いを続けようとする。

闇から声が聞こえる―――

雛が闇に近づく、闇は姿を形成する。

ドサリと音を立て、レイが再び地面へと倒れこんだ。

なんだかんだいいながら出来たみたいです。