王無くして国は成り立たない。
この世界そのものが一つの国で、
この国こそが世界であるならば、
王とはすなわち世界である。
だからこそ、王の命令は絶対で、
王を護る事は世界を護る事に等しい。
これまでは少なくともそうだった。
そして、これからもそうであるはずだった。
――王がネクターを世界から奪い、独占を始めたその時までは。
一介の兵士である俺には、
何故王がそんな事をしたのか分からないし、
それに対して何か思う事はあれど、
どうにかする力なんてない。
――俺は兵士だ。
兵士として王を護り、王の命令に従う。
それしか出来ない。
この命が尽き果てるまで。
その代償として、俺は多くの親しい人達を失った。
――頭の良い友は言った。
王はネクターを独占しはじめたのは、
ネクターを使ってエンブリオの力を借りる。
その行為そのものが近い将来破綻をきたす。
ネクターの枯渇の可能性を王は知り、
今のうちにネクターに頼らない世界を作る必要があったのだと。
そして、反乱する者達が異なる世界の者を呼ぶことで、
ネクターとエンブリオに変わる力を得る事を期待しているのだと。
だが、同時に友は言った。
この仮説が正しいのであれば、
私は王の敵となって、
異なる世界の理と力を得なければならない。
そうでないのであれば、
私は王に付き従う必要がない。
そして、
友は俺に手を差し伸べた。
だが、俺はその手を取らずに、
静かに首を振った。
そうして頑として譲らない俺の態度に友は、
残念だけど、それでこそ君か。
そう笑って去って行った。
次に会う時は敵になるだろう。
だが、後悔はしていない。
――片親である母はいった。
王は乱心した。
ネクター無くしてどうして生活が出来るというのか。
王が何を考えているのか分からない。
私達に首を吊れとでもいうのか。
こんな横暴は許されるわけがない。
ネクターとエンブリオは万人に与えられた恩恵。
例え王であろうとも、
それを奪う事は許されない。
王が何を成そうとしているのかは知らない。
王はもしかしたら、
そうしなければならない何かがあるのかもしれない。
だが、
私達にとっては今を生きる事が大切なのに、
ネクターが無くては生きてゆく事など出来ないだろう。
そして、
母は俺に懇願した。
どうか兵士をやめてくれないか。
王には最早護る価値なんてないだろう。
お願いだからやめてほしいと。
だが、俺はその懇願を断った。
親不孝者だとは思う。
だけど、
もし俺がやめたら王が母に何かするか分からない。
――去っていった友に母を任せ、
俺は母と決別した。
他の奴等もそうだ。
次々と王から……俺から離れていく。
同僚も大切な人も何もかも。
――残された者達はいる。
だが――
心に何かぽっかりと穴が開いたような感じは消えない。

「……。」
「おい。」
「……。」
「おい！」
「ん、ああ。
　……どうかしたのか？」
「どうかしたのかじゃないだろ。
　ぼーっとして……
　王に反旗を翻した奴等が通る絶好の道だぞ。
　……しっかり見張らなくてどうするっていうんだ。」
そんな昔の事を思い出していたせいだろうか。
俺は仲間にゆすられて、
仲間に呼び掛けられるまで、
放心状態になっていたらしい。
最近は妙な連中が王の傍に居たりもするが、
俺と、少なくとも仲間はマシな方……
だと思っている。
少なくとも王に対する忠誠で他の連中に負けるつもりがない。
「済まなかったな。」
「分かればいいさ。
　……で、何を考えていたんだ？」
「――
　昔の話さ。
　王に忠誠を尽くし、
　守り続けると決めたせいで袂を分かった奴等の事を思い出していた。
　……
　色々切り捨てて心を決めて、
　既に未練も何もないと思っていたんだがな。
　断ち切れていなかったらしい。」
「……お前もか……
　今斥候にいってる二人もそうさ。
　――同じような話を聞いたよ。
　無論、俺もな。
　……誰も彼も同じか。
　後悔はしてないし、
　そう決めたはずなのに……
　心に何か穴の空いたような感覚に囚われる。
　……難儀なもんだな。お互い。」
「……違いない。
　どこでこうなってしまったのか。」
「さぁ、な。
　さて。お前にも聞いておくか。
　……他の世界の連中が攻めてきたらどうする？」
いつになく真剣な眼で俺に問いかける仲間に、
俺は一つ頷いて。
「――闘うさ。
　王はこの国を総べる者。
　この国とは即ち世界そのもの。
　つまり相手は世界を害する害虫……虫けらに過ぎないってな。」
「は、成程成程。
　違いない。
　――それじゃあ、奴等が来たら声高らかにいってやらないとな。」
「ああ、俺達が正しい、　
　お前達こそが敵なのだと、な。
　それで乗り越えれないような奴に……
　後を託せるはずもないさ。
　王が正しいのか、
　奴等が正しいのか。」
「力で見定める、か。
　成程。
　負けたのであれば、
　俺達が王を護れる道理はないな。」
拳をあわせて頷く。
そうと決めてしまえば、
気が楽になった気がする。
いや、気がするのではなく、
胸の空白が不思議となくなったように埋まって、
気が楽になった。
『来たぞ！』
そんな最中、
斥候の連中の声が聞こえた。
「……やれやれ、
　それじゃあ、全力でやるとするか。
　なぁ、相棒。」
もうちょっとぐだぐだ話して居たかったんだがなと笑う仲間に、
俺は笑顔を浮かべ、
「贅沢はいってられんさ。
　我等は我等の忠義の為に。
　未来への礎の為に。
　全力で敵となって立ちはだかろう。
　俺達に出来る事はそれだけだろう？
　相棒。」
槍を携え、漆黒の鎧を纏い戦いの場へと向かう。
槍に刻まれるは自分達を象徴する花、
俺達四人が大好きな花、ウィンサムチラーブ。
花言葉は、威厳・純潔――そして無垢。
国を護る兵士としての威厳。
王に対する忠義としての純潔。
そして、世界を護りたいという無垢なる心。
我等の想いも願いもこの槍と共にある。
――さぁ、行こう。
戦いの場へ。
選ばれるのは、
俺達か、それとも――奴等なのかを見極めに。

「来たか。」
「ああ、それで敵の様子は。」
「――女子供が三人、それとぬいぐるみだ。」
「……それは本当に敵なのか？
　いくらなんでも……」
「敵、と見るべきだろう。
　……あまりにも得体が知れない。
　それに、服も……
　間違いなく異世界の人間。
　すなわち……俺達の敵、だ。」
「――成程な。
　しかし……
　やり難いな。」
「……仕方ないさ。
　だが異世界から呼ばれた相手ならば、
　恐らくは手練れ……
　油断は出来ない。
　……行くぞ。
　俺達の職務を果たそう。」
『応！』

陣を組んでまっていると、やがて敵は現れた。
確かに、一見すれば脅威にはみえない。
俺達の誰か一人でも殲滅できそうに感じられる。
だが、
彼女達は異世界の存在。
どうして俺達の常識ではかれようか。
俺は大きく息を吸い込み――
「ふふ、来たか馬鹿どもめ……」
嘲るように吐き捨てて、
武器を構える。
理解される必要はない。
ただ戦い、
勝者だけが次を築けばいい。
だからこそ、
俺はどこまでもふてぶてしく。
相手こそが逆賊なのだという態度を崩さず言葉を続ける。
仲間達にアイコンタクトをすると、
仲間達も同じだったのだろう。
ニヤリと笑って――
『即刻立ち去るがいい！
　世界に害をなす虫けらめッ！！』
声をあわせて唱和する。
相手も最早話し合いなどしても無意味だと思ったのか、
一人の女を除いて戦闘態勢に入る。
理解していないのか？
そう思いながら言葉を続ける。
『ここを通すわけにはいかないッ！！』
そんな俺達の言葉に、
戦闘態勢に入りすらしなかった女は俺達を見て、
――嗤った。
その顔を見て寒気が走り、
俺が勘違いをしている事に気付いた。
黒い髪に冷たい紅い目で俺達をみてくるその女は、
戦闘態勢に入る必要性すらない。
それは死そのもの。
――きっと死神が女だったらこういう姿なのかもしれない……
そう心が訴えかける。
「――ッ！」
敵対するな。
本当に命を捨ててまでも王にしたがうべきなのか考え直せ、
闘う事に関してネガティブな想いが膨れ上がる。
それは仲間達も同じだったらしい。
しかし、
歯を食いしばり耐える。
覚悟などとうの昔に決めたはずだ。
どんな相手でも変わりはしない。
「だあぁぁあッ！！」
仲間が声を張り上げて突撃する。
大声を出して、気合を入れる事で、
相手からの圧力から抜け出す。
成程、考えたものだ。
それにならって俺も、
「喰らえええぇぇッ！！！」
槍による二段突きで仲間に続く。
数は四対四。
数の上で不利はない。
一人一殺の精神で突撃する。
だが――
「やれやれ――
　ま、護るって決めたしね――
　うん。
　だからここを通してあげる訳にはいかない。
　止めさせてもらう！」
自らを省みない斧の一振りで、
俺達の攻撃は止められる。
ダメージは与える事は出来た。
だが、浅い。
確かに何度も四人で攻撃していれば落とせる。
それくらいのダメージは与えているはずだ。
だが――
ぬいぐるみが傷を癒している。
嫌な戦い方だ。
一人が全てを受け付け、
その破壊力を利用、
回復を続けながら魔法を叩き込む。
――死神のような女は何もしてきていないように見える。
だが――
この肌にまとわりつく感覚、
奪われる体力を考えると、
あの女が何かしているに違いない。
――冥界へと俺達の魂を引きずりこむような何かを。
後、一歩、後一歩で一人を倒せる。
だが、
俺達の刃は届く事は無かった。
「く……そ……ッ」
一人、また一人と倒されていき、
残されたのは俺一人。
「一人ですら……倒せないってのかよ、
　俺達じゃ……ッ！」
槍を支えに踏ん張る残された俺。
だが――
「……残念ね。
　四対四なら勝てる……と思ったかしら？
　貴方達にはみえなかったろうけど、
　――押し寄せなさい。」
死神のような女が指を鳴らす。
そして、俺は見た。
そして、理解した。
女は何もしなかった訳じゃない。
“何もする必要が無かった”のだと。
なるほど、
その押し寄せる霊の群れを見ればわかる。
女はきっと――死神のような女なのではなく、
死神そのものだったのだと。
――全くもって運がない。
だが――
これですっきりした。
悔いはない。
願わくば――
この世界が正しき未来を築ける事を――
そして、俺の意識は途絶えた――

「何とかなったわね。」
「だね……
　……
　魅月さん、この兵士達殺したの？」
「いえ？生かしてあるわよ？
　だから丁重にね。」
倒れた四人を横にのかそうとするアルネスに、
魅月はそう答えると、
アルネスは、分かったとばかりに丁重に運ぶ。
「しっかし……
　これじゃどっちが敵か分かんないね。
　――エモさんは食べ物を独り占めしたら敵って単純思考で、
　ペルチェさんはどちらかというと手助けしたいくらいだから、
　うん。
　あんまり参考にならないけど……
　……本当にこっちで闘ってていいのかなぁ。」
運びながらため息をついて、
魅月へと胸中を語るアルネスに、
「良いんじゃないかしら？」
そんな悩みなどどこ吹く風で魅月は応える。
「……参考までになんでか聞いていい？」
そんな魅月の様子をみて、
どうせロクな答えかえってこないんだろうなぁ、
とため息をつきながら問いかけるアルネスに、
魅月は真っ直ぐアルネスの目を見つめ――
「どちらが正しいかなんて判断は出来ない。
　私達には情報が少なすぎる。
　けれど、今のこの状況を放置するのは良くないのは確か。
　――少なくともこの世界の普通の人達にとって、
　王の行為は死活問題なのだから。
　この兵士達が何を考えたか分からないけど、
　彼等は兵士よ。
　例え間違っていると分かっていても、
　王を信じて守り抜く。
　ひょっとしたら、
　王が間違っていない何かを知っているのかもしれない。
　だとしても、それを語らぬ以上、
　こちらはどうする事も出来ないわ。
　――真実を知り、
　正しく歩む為にも、
　今は前に。
　……焦る事も恥じる事もないわ。
　それでも、歩む事が辛いなら――」
「――辛いなら？」
「私が後ろから追い込んであげる。
　前を進めるようにね。
　悩みなさい。
　存分に。
　でも、悩ませ続けてはあげないわ。
　貴女の良い所は真っ直ぐ進む事だもの。
　迷っても、
　悩んでも、
　それでも前に進むしか出来ない。
　自分でもわかっているのでしょう？」
歯に衣着せぬ魅月の返答。
でも、真っ直ぐに伝えられた言葉を聞いて、
アルネスは笑みを浮かべ……
「うん、それもそっか。
　私には確かにそれしかできないや。
　――でも、もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃない？」
「……私に優しさを求めるのが無駄だと思うわ。
　……行きましょう。」
「デスヨネ。」
兵士達をおいて四人は進む。
先には一体何があるのだろうか――？

[妙な凄み]を怖がっちゃいないが、困ってはいるようだ。ワンコがきゅーん(´・ω・｀)って感じに。

何言ってんだコイツと携帯眺め。

眺めるだけじゃなくて口にも出してみた。

ネコネコ・サイド

黒猫掴まった！もふられてる！！
じたばたじたばたじたばた