ｽﾞｷｯと右目が痛んだ。

慣れない眼帯と狭まった視界に違和感を感じながら、俺は重たい鎧と武器を背負い、見慣れない街の中を歩いていた。

「やれやれ、これからどうしたもんかな。」

右目を治療してくれた通りすがりの医者は俺にこう言った。

「ようこそ、メルンテーゼへ。歓迎しよう、布団の中でな！！」

そう叫んで医者が服を脱ぎだした時は本気でビビった。

で、

「うーん・・・・」


「・・・・・・」


「・・・」



考えが何も想い浮かばなかった。

それはそうだろう。今まで研究者達の指示に従い、実験と実戦の日々の中で生きてきた
俺にとって、自分の意思で自分の生き方を決めること自体が初めてなのだ。

「所詮、俺は偽者だしな・・・」

研究者達は英雄の遺伝子から、最も英雄に近い人間を作り出すために数多のクローンを生み出した。
その中の一つ、【個体認識番号E-07】と名づけられた俺は言わば、
英雄の身体から勝手に生まれた垢のような存在である。

「そんなゴミみたいな俺は、これから一体何をすればいい？」

「理想も夢も持たない偽物（フェイク）は、何のために生きればいいんだ？」

「俺には、何も分からない・・・」

空を見上げ、そう呟く。もちろん、返事は返ってこない。

そのはずだった。

「だったら、本物に聞けばいいじゃない。」

「ッ！！？」

半分自棄にやった俺の耳元で、そう呟く声が聞こえた。
慌てて後ろを振り返り、声の主を探してみたが誰も見当たらない。

ただの空耳だったのか、いや、仮にそうだったとしても・・・・

「そうだ、本物だ・・・！」

「本物（オリジナル）の英雄なら、きっと分かるはずだ！」

「偽物の俺がここに居る理由、そして、生み出された意味を・・・！」

　
こうして、俺は初めて自分の意思で自分の行動を決めた。

決意を固め、歩き出すと「くすくす・・・」と誰かの笑う声が聞こえた気がした。
しかし、今の俺にはここでもう立ち止まる理由がもう無かった。



俺は偽物の英雄、そう、フェイク・ザ・ヒーローだ。
だからこそ、俺は会わなくてはならない、聞かなければならない、見なければならない

本物の・・・英雄を！

　看板を持って少女が立っている。

　ここは兵舎だ。良いのだろうか。