―航海日誌十三日目―

酔って暴走、あるいは迷走と言うべきか。
ともあれフラフラとどこかへ去ってしまったキーシュを追いかけ、水辺へとたどり着いた。
どうにかキーシュと合流を果たし、たまたま出会った狐耳の女性と行商人風の男と行動を共にする。
二人とも一揆参加者のようで、いつ敵が現れるかも分からない場所で一緒に行動できるというのは心強い。

……そう、俺はまた水辺に戻ってきた。
一揆に参加したばかりのころは水辺を散策していたが、キーシュ達と行動を共にしてからは一度も寄っていない。
この清流の気配は、結構久しぶりな気がする
…………清流と言うのは、あまり慣れないが。
まぁそれは仕方ない。
結局のところ、俺は骨の髄まで海の男なのだ。
例え水から海を拒んでしまっていても。

…………分かっている。
俺は海で生きられなくなったから、陸で生きる方法を探している。
ずっと、そういう嘘をついていた。
魚は陸では生きられない。
どんなに頑張ったって、俺はエラ呼吸しかできないのだ。
だから俺が見つけるべきは、陸で生きる術ではなく海に帰る術。
分かっているんだ、そんなことは。
だが、どうすればいい。
海の恐怖を克服するために、どうすればいいのだろう。
あの鯨を屠る日々に、どうすれば戻れるのだろう。

ふと、噂が耳に入った。
水辺の奥には、巨大なイカがいる、という噂を。

（この日の日記はここで終わっている）

肩をすくめ、担いでいた銛を軽く振ってから逆手に持ち変える。
銛を撃ち出すための構え。鯨捕りが誇りとする、戦の構えだ。