「……お嬢――」

　悪夢に魘される彼女に触れた時に、それは起こった。
　目の前にて鮮やかに咲き誇る花。その存在自体が異常ではあるが、今問題となっているのは別の要素だ。
　彼女が毟った箇所に花が咲いている。大輪の花。
　月下にも艶やかに咲き誇る様がいっそ毒々しくも映る。
　眠気の残滓を纏う彼女の双眸にも生気が宿る。
　事態を把握したのか。それとも苗床が痛むのか。
　そこに映す色を伺うよりも早く、彼女は顔を覆った。

　――元より“呪い”なのだから、よい物であるはずがない。

　そう、最初から分かっていた事だ。
　咳き込む彼女の背をさすりながらに思案する。
　彼女の今まで見せてきた言動と、呪われた事実。
　いまいち萌えきれない様々な事象を照らし合わせれば、一つの過程が生まれる。
　それが事実か否か確かめる気はなかった。
　元より共にある存在が目の保養であれば、他は些事ではある。
　いつもの――変わらない――笑みを見降ろし、窺うような視線に笑みを浮かべる。

「……60点」

　笑い声に評する言葉を紛らせて。
　出来上がったばかりの杖を手に取り、丁寧に差し出しながら変わらぬ声音の侭告げる。
「いえ、なにしろ素人作ですので不備などがあるかもしれません。
　後で使用感を教えて頂けましたら幸いです」
　一礼の後に、渡すタイミングを逃していた毛布を拾い、軽く払って渡す。
「どちらにしろ、陽が昇ってからの話です。
　夜が開けるまで未だ暫く時間があります。眠れるようでしたら、どうぞ身体を休めて下さい」