ぐつぐつと、鍋から粥が煮える音がする。
　炎が揺らめくまま、前々回しとめた麒麟の角を小さなナイフで削る作業を、数十分淡々と続けていた。
　麒麟の角とは言うものの、触れていれば分かるが、効力的なものを得られる事はあるまい。精々好事家か、どこぞの成金を騙すくらいにしか使えない。
　よって、日銭の為のアクセサリーにでも加工してやるのが一番だろう。
　まぁ尤も、鍛冶をする以上は全力だ。そこで手を抜かないのが信条だ。

　閑話休題。

　いつもは周りに毒使いの女、竹槍を持った愚女、そして魔王なエルフが共に囲んでいるこの焚き火だが、今日は彼女らの都合等でいつもと顔ぶれが異なった。
　エルフの姿はなく、愚女の代わりに捻れて殴打痕だらけの生きたアルミ缶、毒女の代わりに一体の人形の姿があった。
　もっとも、少しばかり集中してた間に状況が少しばかり変化していたが。
　共に焚き火を囲んでいた筈のアルミ缶は、焚き火の上に鎮座し、その中にすっぽりとドールが収まっていた。
　ドールの顔は血が通ってもないにも関らず蒼白であった。
「……」
　一度その状況を確認した上で、見なかったことにして手元に視線を戻した。が、それを邪魔する声が耳朶を打った。
「今見ましたよね！？　ていうか目が合いましたよね！？　なんで見なかった事にして作業進めようとしてるんですか！？」
「チッ、目ざといエンブリオだ」
「舌打ちした！？　いいから助けて下さい！？」
　涙を目尻に溜めながらの言葉に、吐息を零す。
「なんでそんな事になりやがった。めんどーな」
「このアルミ缶がトチ狂って自分の中に私を詰めたんですよ！！　ていうか貴方集中し過ぎですよ！？　私の叫びとか聞えていたでしょ！？」
「すまん、俺様自身に被害がなかったもんでスルーしてたわ」
「ひどい！？」
　喧しいドールをとりあえず宥めながら、俺様は僅かに視線を下ろし、アルミ缶の方へ視線を向ける。
「で、オマエは何をしたいんだ？」
「アルミィイイイイイ」
「あー、もう良い黙れ」
　ダメだこれは。
　使い手に似て話が通用しない輩だコレ。
「で、ドール。どうやって助ければいい。レックレスチャージぶち込めばいいか？」
「死んじゃいます！？」
「アブソリュート？」
「同じです！　ていうかこのアルミ・カーンをなんとかして下さい！」
「俺様にどうしろっつーんだよ。自力でなんとか……できるなら俺様に助けなど請わんわなー」
　などと言ってる間にグツグツとか言ってる気がする。
　もう手遅れなんじゃないかこれ。
「手遅れみたいな目で見ないで！？」
　ああ、顔に出てたか。実にその通りだと思うのだが。
「出れないのか？」
「へこんだ所が引っかかって、出れないんです」
「ふむ……」
　アルミ缶の端を掴み、近くの岩に斜めに立て掛ける。
　そして背中の大剣を引き抜いた。
「ちょっと！？　なんで武器を！？」
「こういうのを大砲とかロケットランチャーとか言うんだが、知ってた？　まぁ後者は自立飛行する爆弾ぶっ飛ばすモノだから正確には違うんし、そもそも爆薬で打ち出すワケじゃねーけどな」
「そんなトリビア聞きたいわけじゃな――」
　問答無用でフルスイング。正直考えるのは面倒だ。
　甲高い金属音と共に、アルミ缶がひしゃげる。
　アルミ缶内にあった残留空気が衝撃により圧縮され、打ち出される砲弾。それは小さな人型をしていた。
「たーまやー」
　撃ち出されたドールを、ミニドラゴンが無事受け止めた事を確認して、振り向いたとき、そこにあったのはかつて円筒型をしていた筈のアルミの塊。
「さて、次は邪魔をしてくれるなよ？」
　そう言って、元の位置に腰掛ける。
　右足の下でアルミの塊だった何かが呻き声を上げていた気がしたが、無視をする。
　俺様は鍛冶に手を抜くつもりもなければ、手を抜かさせる要因を作るような輩を許す気はないのだ。

＞メビウス

＞カグヤ

＞リカー

>レーン

>カグヤ

>リカー

＞レーン

＞メビウス

＞リカー

＞レーン

＞メビウス

＞カグヤ