ネムの手足は腐食していた。　
傷口から毒が入ったのかもしれない。　

妖魔専門の医者というものはなく、　
ここまで腐食が進行したのなら切除するしかないというのが兄上の見解だった。　

ネムの、赤黒く変色した腕に手を伸ばす。　
ネムは精一杯の力を以って、それを振り払う。　

ネムは己の手足の異常を理解していない。　
きっと、俺たちが悪意から手足を切除するのだと思い込むのだろう。　

嫌われる。　
憎まれる。　
分かっていても、ネムを生かす道は他にない。　
俺はもう一度、兄上に頭を下げた。　



ネム。　
遠い未来に、互いの言葉が分かるようになったなら。　
心を重ねることができたなら、伝えたい。　

匂いにひかれて沙耶江が立ち寄ったその部屋は、一種異様な雰囲気に包まれていた。
部屋の中央に鎮座する堂々たる鍋（壷？）。
その周りをちょこちょこと動きまわる汗だくの小さな少女。
沙耶江の心は踊った。
そして即断しかねる二択を前に、一瞬彼女の意識は冷静さを取り戻す。

両方ともいただく――
それが沙耶江の出した結論であった。

伯爵の姿を見て声をかける。

足のない身体で、空中に浮きながら丁寧にお辞儀した。

その場にしゃがんで、ぬるぬるの身体を抱く。

伯爵の持つ器の中を、覗き込み、匂いを嗅いで。

ひょいと、ウィンナーらしき物体を摘んでパクリ。

鵐と焔詠はビームを撃ち合って遊んでいる…

何かを言いかけたベアトリスは去っていってしまった。

物陰からこっそりぴよらっとが顔を出している。