目の前の兵士が崩れ落ちたのを確認し、彼女が小さくつぶやいた。

彼女にしては珍しいほどの、気が抜けたような笑顔をこぼし、ふらりと前に倒れていく。
あの兵士には何度も敗北していたと言っていたから、安堵したのだろう。

私は彼女が倒れきる前に、なんとか抱きとめた。
小柄な少女の、異様な重量に眉をひそめる。
軽すぎる。

子供だから。
女性だから。
「羊」だから。

そんな言葉では説明が付かないほど、不健康に軽い。
ロマンス小説などでありがちな、女性が意中の男性に抱き上げられて軽すぎると文句を言われる
ベタなシーンを少し脳裏に描いて苦笑する。

彼女は私におびえているし、私も娘以上に年の離れた少女をそう言う目で見られるかと言えば、
無理だとしか答えられない。

そもそも、彼女の食生活を見ている限り、華奢すぎてと言うよりは、自己管理ができていない
ための軽さのようだ。

人一倍誰かの監視というか、庇護が必要そうだというのに、彼女は一人旅を止めようとはしない。
理由は間違いなく、彼女が「人間」を恐れているせいだろう。
だが、それだけではないような気もする。

この世界は特殊なようだ。
探せば人間以外のものなど、いくらでもいるだろうに。
ようは、ものぐさなのか。

私はため息をつく。

私には、かつて旅を共にした仲間がいた。
彼女たちが今どうしているかは分からないが、彼女たちと共に旅が出来た事は今でも感謝している。

私は、腕の中で眠る少女につぶやいて、彼女が向かおうとしていた先へと足を進めた。

死んだ魚が呼吸を覚えた――とでも表現すれば良いのか。
両目が微かにキラキラしている。まるで子供だ。

大真面目な顔で、きっぱりと。

ぐりんと懐から覗き込んだ。

何故か自分までガードしとる。