（日記で全SPが切れました……メッセとか……コミュとか……間に合わなかった……＾ｑ＾）

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◆一ヶ月前のガンドさんの話・1（多分大体3ぐらいで終わる）

　賃料毎月ウン百万とかするのであろう超大層な作りの高層建築ビルの並びとか、電車に乗っている時に窓の向こうに並ぶ、生活臭漂う一軒家の一帯とか、車で通った山道の間にぽつんと佇む山小屋とか、そういう、僕が人生で一度も立ち入る事は出来ないであろう空間が、妙に気になってしょうがなくなる時がある。
　そうやって僕の目の前から次々流れては去っていく景色の向こう側はもしかしてこことは別世界なんじゃないかとか思ったりする。ビルの向こう側には僕らとは別世界の人種、何のしがらみも、何の悩みも、何の寒さもない人達の理想的な暮らしがあるんじゃないかなぁって。
　自分は決してそこに辿り着けない事を思うと超センチメンタルな気分になってくる。
「だる……」
　独り言。別にテンションの上がる行き先でもないのでこんなぼやきも漏れてしまう。
　電車が混んでいないので座れた事だけが救いだ。シートの下で振動を感じながらぼーっと窓の向こうで地名も知らない景色が流れていくのを見ている。
　流行を伝えるカラフルな看板が張り付けられた、ビルの大群。その並びからトンネルを一つ抜けると突然緑が広がった。どうも山の中に街を切り開いた地区を通っていたらしい。木々が並んで花が咲いている。綺麗だ。ここで降りてピクニックにでも行きたいな。クオリャスカ駅には何度か行った事があるけれど、あそこは駅前に大型のデパートが並ぶ超都会で、こんな風な緑には駅からどれだけ歩いてもお目には掛かれない。
　携帯を取り出しメールを打つ。

【件名/（無題）】
【アカイン君行先をマリュシカ駅に変更しよう！　今日は天気がとてもいい！　僕はピクニックに行きたい！】

　そのまま五分ほど待っていると、アカイン君から返事が返ってきた。

【件名/Re:（無題）】
【マリュシカ駅にレジャーショップなんてありましたっけ？
先輩が道に詳しいならそれでもいいですけど】

　僕はメールを見て吹き出す。

【件名/Re:Re:（無題）】
【ごめん冗談。マリュシカ駅には山しか無いよ。
ちょっと君をからかってみたくなっただけさ★あと十分ぐらいで着くと思うから待っててね★】

　その後、返事は返って来なかった。
　アカイン君は先輩に気を使ってくれる可愛い後輩だが冗談が通じないのが玉に疵だ。いや騙されてくれて可愛いんだけど。多少胸が痛んでしまうね、うん。
　そのまま駅に到着して、待ち合わせ場所に辿り着く。周囲をうろちょろするまでもなく、背の高いアカイン君の姿は人ごみの中でもすぐに見つけられた。休日のアカイン君は派手目のオレンジ色のTシャツにグラサン着用という姿で、私服出社の会社なので私服自体は珍しくないのだが、眼鏡をしていない姿は初めて見たので驚いた。
「おはようございま……」
「何そのグラサン怖い！　怖いっていうか笑うよ！　取って！」
　アカイン君が死んだような目でサングラスを外した。ショルダーバッグから黙って眼鏡ケースを取り出して、いつもの青縁のフレームを着ける。
「目ぇそんな強くないんですよ」
「光苦手？」
「色素薄いんです」
　彼の薄く黄色掛かったグレーの瞳を見やる。黒髪に対して灰目というのは確かに珍しい取り合わせで、目が弱いと言うのには説得力があった。
「えじゃあ外さなくていいよ、僕の言う事なんて八割冗談だし」
「俺の拡大鏡眼鏡なんで。元々先輩に会ったら付け替えるつもりでした」
「あそーなんだ」
「路地裏の個人経営店みたいなのにも入りますんで拡大鏡無しはキツいっすよ」
「僕ピアスだからいつも着けてるんだよぉ、大丈夫」
「あい。じゃ行きましょう」
　駅前のすぐに並ぶ大型のチェーン店の通りを抜ける。パソコン関連、携帯、生活用品、それらの店外広告が目に入っては消えて行くのだが見ていると結構安い。
「ああちょっとメモリ増設したいの思い出したなぁ。見に行っていい？」
「全部終わったらにして下さい」
「はーい」
　裏路地に入って、個人商店が連なる一帯でアカイン君の背中が止まった。ぐるりと三百六十度を見渡す。喫茶店やら古本屋やらの並ぶ商店街だが、どの家屋も年季が入って見えた。
　その端で、軒先に殆ど八百屋のような売り方で電子機器が乱雑に積まれている電気店を発見する。少し奥にトレーニングシャツ姿のおっちゃんが段ボールの上に座っていて、その姿もまた電気屋のものとは思えなかった。それに加えて驚いたのは、値札がジダの共通語で書かれていなかった事。あれは隣の国のスピカリ文字だ。ピアスを触り拡大鏡を呼び出すと視界に透明なブラウザが広がる。自動翻訳でスピカリ文字を解読する。
「何だこれ安い。三割は安い。どのルートで回って来てんの。ヤバいヤツじゃないの」
「さあ。俺は安いから使い捨ての何やかんやを買う時はいつもここに来てますよ。使い捨てるまでの間に壊れた事は無いす」
「メモリも安いよぉ……？　えどーしよう。あ、だからさっき買うなら後回しにしろって言ってた訳？」
「ま、この辺のはどっからどう見ても正規品じゃないですけど」
「……。やめとこ。安かろう悪かろうで壊れても困るし。コンロとかテントとか。目的の物だけ買うよ」
「了解」
　アカイン君の行く店はどこもこんな調子で安かった。ただしどの店も、拡大鏡で検索してもヒットしない。どこもかしこもネットで登録されている座標では民家か空き家という事になっていて、まず正しい情報が地図に書かれていないのだ。益々非合法の可能性を疑ってしまう。
　ガスコンロや替えのガスやらファミリー向けテントやら寝袋やら、アカイン君は必要物品とそれに対応した販売店が頭の中にリストアップされているらしく、迷いもせず次々と違う場所に行っては購入、を繰り返していた。流石出張慣れ組は僕ら素人とは違うもんだ。
　日が暮れ出したかな、という頃合いで大体全部の買い物が終了。大き目の物は会社に郵送してもらう事にして、両手で抱えられる程度の物だけを手にぶら下げて帰る事になった。アカイン君は特に重い物を肩に抱えてくれもして、やはり彼はザ・男って感じだ。僕と違って。
「おー。いや本当に君の言う通りだったよ。通販で買うよりずっと安かった」
「お役に立てて何より」
「ご飯は食べていく？　なら奥さんに今日は外食してくるってメールしておくよ」
「あー……そうすね。帰って作るのも面倒だし」
「じゃあそれで！　飯ぐらいは値段気にせず食いたい物を食おーう！」
　腕を上げた所で、盛大にお腹が鳴った。

＞シーから貰った飴

そう言うとライラはシーから貰った飴を手に取り、食べようと包みを開けようとする。
…が溶けた飴が包みに密着して思うように取り出せない。

うっかり飴を落としてしまったようだ。

地面に落ちた飴を手に取り、残念そうに眺める。

　ぽっぽが羽音を立てながら動きまわる
　何かを見つけたようだ