■平原：大草原にて

「陽が出とる間は、ぬくいもんやなぁ…」
　伸びをまじえる間はのんびりと歩調を緩め、広い視界に目を細める。
　季節のせいか、青々としたとまでは言えないまでも、緑の草原はやはり清々しい気分にさせた。
「なぁ、トーカよ、鼻歌でもエエさかい、何ぞ気分がよいように歌ってくれんかね」
　本日の同行者にそう声を投げる。
　同じく異界よりきた、科学者とはまた違う技術を操る歌姫。
　気温に対抗的な露出を維持しているが、当人が平気ならば口を出す必要もないだろう。
　目に楽しいし。
　あぁ、しかし、見ているだけで寒い、ということもありえるな。
　我慢できなくなったら、着物でも貸してやろう。
　そうなったらなったで、見ていなくても寒くなるのだが。


「さっきゅんは、偉いの？　偉くないの？」
「んぁ？」

　探索と観客気分とを楽しんでいた最中に、ふと、と問われて振り返る。
「ももちゃんにこづかれてるし。まなかねーのがかしこそうだし」
　うん。前者はともかく、後者は、どういうわけやろうか。
　問い質すのはやめておいたほうがいいと、私の知性が忠告していたのでおとなしく黙って聞いている。
　それをよいことに、ユーグはよく溜め息ついてるし、カレンは唸りたそうにしているし、と続けられた。
「…責任者？」
　小首を傾げた様は愛らしいが、簡単な単語で〆られた疑問符はトドメのようだった。
「…なるほど…これがSPもとい精神攻撃…！」
　せいぜい、難しい顔をしてみせても、きょとんとした顔が明解さに晴れることはない。
「私が偉なかったら、ついてくるんはイヤかね？」
「え？　ううん、安心して！大丈夫だよ！元気出して！たまには味方してあげるから！たぶん！」
　きゅ、と拳を固めて添えたイイ笑顔で畳み掛けられても、むしろ悲しい思いが湧いて止まない。
「せやな、…たとえば、あんなんとかが、向かってくる時とかは、味方でいてほしいわな…」
「…わぁ、お鼻ながーい…」
　このまま進めば、かちあたるであろう先に、眼鏡を吹いて目をこすりたくなる遠近法の生き物が見えた。

　異界にきて、まず、欲しいものは？
　情報、食料、人員、必要なものは数あれど。
　それらは必要であって、必要でもないのにただ欲しくなるものは、笑ってくれる誰かであって。

「頼りにしとるで」
「うんっ、まっかせて！！」
　気合の入った様子を見て、充足感を得ている。
　私にとっての彼ら、彼女らは、それだけで十分、頼りになるものだ。