――言い争う声が、聞こえた。

否、片方が一方的に声を荒立てていると、言うべきかもしれない。
何故なら、会話の相手であろうもう片方の声は、耳に届いていなかったから。

（一体、何の……？）

様子を伺うべきか、暫し、迷う。
敵対するものであれば、根城の傍を動き回られては厄介だ。

だが。

「あぁ、此処に居ましたのね」

茂みを掻き分け、その声の主はあっさりと、姿を現した。
――一匹のカッパを従えて。




「このカッパ、勝手に付いてきたんですわ」
全長30cmにも満たない小さなドールは、ふわり一礼をすると
にこやかな笑みから一転、呆れたように溜め息を吐く。
「……私からすれば、貴方もいつの間にか勝手に人の鞄に入って
いたことに、なるのだけど」
「心外です」
ぴしゃり、切り捨てられた。
「そのカッパと同等の扱いをされるのは困りますわ。
あぁでも、まだきちんとご挨拶はしていなかったのですかしら。
――シャル、と申しますわ。
私がここに居ることには、深い事情と理由がありますの。
今は省きますけれど」
「そう。……よくわからないけど、深くは聞かないでおくわ」

さらにドール――シャルが話すには。

後ろにいるカッパ。
見覚えがある気がしたが、以前に倒した相手だったらしい。
――シャルが、踏みつけて。
「えぇ、確かに踏みつけましたわ。
それで気絶させたことも覚えています。
ですから、報復をしにきたんだと思ったんですの。でも」

「『もっと踏みつけてくれ』と、言われまして。」

「……え」
「何度も断りましたわ。でも引き下がりませんの。
仕方がありませんからアレも一緒に連れて行くことにしようと
思うのですけれど、構わないですわよね？」

困った、といいながらも、もう完全に楽しんでいる表情だった。

「好きに、すれば……」
それ以外に答えようもなく、自分が関係ない位置にいられるなら
許容範囲だと言い聞かせ、少女は痛む頭を抑える。

「よかったですわ。――あら、そろそろ、戻る時間ですわね。
ということですので私を乗せて連れて行ってくださるかしら、下僕」

その呼び方は、どうなのか。

もう声に出す気力も失せたまま、少女はふらり、二つの影についていく。

小さなドールは、最早足代わりとなったカッパに乗り、ついと目を細める。
視界の先は、倒すべき、相手。