『あなたはどうしてそこまで戦うんですか？』

『……心配してくれるのか？』

『当たり前ですっ！』

『当たり前なのか？　まぁいい、戦う理由についてか』

『よくはないんですけどね……はぁ……』

『？　まあ戦う理由なんてものは恩があるからそれを返すというものが強い』

『それだけ、ですか？』

『いや、これでも俺は生きていたい。生きる、生き残るというのも理由だ』

『じゃあ、生きたい理由ってなんです？』

『あいつが作る世界を見てみたい。それに、そうなったらちょっとした我侭を貫こうと思ってな』

『我侭、ですか？』

『ああ。目の前にいる女性を娶るという我侭をな』

『――っ！？　あ、あの……』

『種族が違うし、反対もあるだろうが。何、俺が貫きたいと思った我侭だ。
俺も男の端くれなればこの程度通せるだろうよ』

『こっちの意見は？』

『む、嫌なら……。そうだな、十年かけてでも口説こうと思っていたんだが』

『はぁ、そこまでの手間は取らせませんよ、もう』

『……いいのか？』

『いやだからなんでそこで聞いちゃうんですか、貴方は。　……死んじゃ、いやですよ』

『何、お前の祝福を貰った剣を掲げ戦うんだ。負けることはあるまい』


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「……やれやれ、そう言っていたのだがな」

男は笑う。
それは自嘲を多分に含んだものであり。
そしてなにより、弱々しかった。

「とはいえ、この戦は俺の勝ちではある。約束は守った、と卑怯者は言わせて貰うにしよう」

剣を杖のようにして、立ち上がる。
周囲には敵兵の亡骸。
動くものは、はるか遠く視線の先の敵兵のみ。
あの部隊がこちらに着く前に逃げれるか、とも考えたが。

「無理だな。血を流しすぎた。これでは……」

この後の世界も見れぬし彼女にも会えん、そう言ったつもりだったが言葉は声にならなかった。
俺の体はついに、声すら発せぬほどに壊れたらしい。
……ふむ、あいつは大丈夫だろう。
この戦が分水堰、そして水は此方に流れた。
問題はない。
心残りは……ああ、卑怯者の言い訳で逃げてしまったが、怒るだろうな、彼女は。
死にたくない。
俺はこのまま、命尽きるまでそう思ってしまうだろう、そう願ってしまうだろう。
だが、俺は人間だ。
そういう最後が、性に合っている。
本当に死にたくない、この様な場所で、戦場の怨霊と久遠の閨を共にするなど御免被る。
大体閨を共にするならば彼女としたいところだ。
……ああ、目が霞む。叶わぬ願いをいう暇もない。

彼女が造り、祝福してくれたこの武器を抱いたまま、俺はここで眠ろう。
だが、いつの日か。
この剣が、正しき者の手に、わたることを、願って。
俺のようになる人が、一人で、も……減る、よ、う、に。

あ、あ。
やく、そく、ま、もれ、なく、て……すま……。


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「はっ、はっ……」

逃げる。
後ろから迫ってくる人。
まだ、追いつかれちゃ駄目だ。
もっと遠く、もっと、もっと遠くに……。
そうじゃないと、今度こそお嬢様が狙われる。
身寄りのない私を女中として雇ってくれた上、今度は『養子に迎え入れたい』とまでいってくれたご主人様。
私のことを、まるで姉妹のように扱ってくれたお嬢様。
もし、その恩を返せると言うのであれば、きっとこの時なんだって思うから。

「まだ……まだ……」

走れる。
走りつづけられる。
でも……お嬢様、ごめんなさい。
相手を欺くために、と無理矢理に奪ったこのドレス、返せないかもしれません。

そして……。

「あっ……」

走る痛み、自分が転んだとわかるのは直ぐで。
そして。
男が追いついてきたのも、わかった。

改めてごめんなさい、お嬢様。
私は、そうやって謝る事すらもう、できそうにありません。

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ぽんぽん。

ミルフィーユが得意げに鎌を一振りする。
なんとも言えない、甘いお菓子の香りが辺りに広がった。
それを見ていたシロは、アリエスの一言に複雑そうな面持ちで頷く。

食欲をそそる、この香りはどうにかならないものかとシロは肩を落とした。

しばらく談笑していたところで魔剣の話になり、
彼女の口から出てきた「魔剣そのもの」
という言葉に二人は目を丸くした。

二人は驚きながら、まじまじと見つめている。

しょげる仕草のクマのぬいぐるみと、それを慰めるようなセツナ。

えっ。という感じでセツナを見上げるクマのぬいぐるみ。