『行き当たりばったりな冒険　〜ダークの場合〜』



　とある世界の過去、とある戦艦にて――


　それは彼女の旦那の故郷の星、惑星『アース』の伝統文化の一つらしい。
この時期になるとお化けや怪物等の仮装をしてお菓子のパーティを行うのだそうだ。
『はろーなんとか』という祭りの一種らしい。

　彼女は今、御伽噺に出て来そうな魔法使いの格好をしていた。漆黒のローブに
三角の帽子、手にはロボットの廃材で出来たやや不格好な杖を持っている。
　彼女の左手は白い大きな袋を持っていた。袋が揺れると紙の箱が
擦れ合うような音がした。私が意識を閉ざしている間に用意したのだろう。
私はその中身を知らない。知らないが予測は付いている。数日前から
彼女の部屋に菓子の入ったケースが置いてあったのだ。恐らく中身は菓子だろう。


「あまり自信はないんだけど……どうかな？　ダーク」
　彼女は格納庫に着くと、何かに被せてあった白い布を引きずり下ろした。
　一般的成人男性の平均身長よりやや高めの人型ロボットがいた。
　見覚えのある形状の外装は中世の騎士の甲冑を連想させた。背にはロボット用の
特殊金属製のマントがついている。

『これは……アークじゃないか』

　彼女が頷いた。
「ミラージュの決戦で大破しちゃったけど、運良く記憶回路は無事だったの。
巨大ロボットとしては戦えなくなったけど、貴方が異世界を旅していた時の
ミニアークの外装の設計図が残っていたから、それを元に作ってみたのよ」
　私が意識を閉ざしている間に一人で作り上げたのか。

『……そうか、無事だったんだね』

「うん……無事だったよ」
　頬に伝う雫を拭う。雫はそれ以上零れなかった。
「私よりもアークと居た時間が長いダークに起動してもらいたくて」

『私でいいのか？』

「いいの」
　身体の主導権が私に移り、私は彼女に促されるままアークを起動させる。
　アークの両目に光が灯った。
「お早う御座います。マスター」
　ミニアークと変わらぬ声だった。
　また雫が落ちた。彼女が言った。
「アーク、お帰りなさい。それと……酷い決断をさせてしまって御免なさい」


「やだ、もう時間がないわ！」
　感動の再会を喜び合う時間は短かった。彼女は大きな袋をアークに渡す。
「目覚めたところ悪いんだけど、これからボランティアを手伝って欲しいの」
「ボランティア？」
「そう、子供達に笑顔を配るボランティアよ。お菓子配りとロボットショーよ。
これも正義のロボットの務めなの」