手のひらに小さな灯りをともそうと試します。
故郷では、日常的に使っていた光です。

なんどかからぶりを繰り返して、理解しました。

私が故郷で使っていた力は、腕力に頼る物ではありません。
自分の体内を巡るエネルギーを、様々な形状に変えて、行使する。
それはこの世界でも存在するようでした。

…ただ、私はこの世界の生き物ではありません。
だから、私はこの世界で同様の力を使う事ができません。
だからこそ、ここの生物…エンブリオの力を借りる必要があるようです。

隣でぴよぴよ言ってるシルフを見つめます。
くどいようですが、私が故郷で使っていた力は、腕力に頼る物ではありません。
しかし、隣のトリっぽいのは、どうも物理攻撃を得意とするようです。

最初に感じたとおり、相性がものすごくよくありません。
とても非効率です。

つぶやいた瞬間、頭部に何かが落下してきました。
思わず変な声を上げてから、あたりをいそいそと見回します。

………だれも聞いてないよね？だれもいないよね？だいじょうぶだよね？


は、取り乱しました。
おそるおそる頭に手をやり、いまだひっついている異物をはぎ取ります。

硬質な手触り。
それは、白い鱗の小さなドラゴンでした。
英雄の物語に出てくるような、威風堂々とした物ではなく、両手に乗っちゃう大きさの、ドラゴン。
レベル感で言えば、となりのぴよぴよ言ってるトリレベル。
しかし、確かに魔力の残滓を感じて、私は首をかしげます。

手の中のちびドラ（ただし猫型ロボットではない）を、平たい岩の端に置き、意識を集中します。

………


…………。



契約は、なったようです。
いつの間にか閉じていた目を開けて、私はもう一度目を閉じました。





このままダッシュして逃げたい

私は脳裏を占めた欲求を採用し、片足をざっと後ろへ引きました。

逃亡はあえなく失敗しました。
私の右手首を茶色い手袋をはめた男性の手がしっかりと掴んでいます。
はなしてくださいとの思いを込めてじっと凝視してみましたが、無視されました。
しかたなく、口を開きます。

このひとは、白の宰相という肩書きのえらいひとです。
私が、故郷を飛び出した原因の人でもあります。
国王の命を受けて、私を城へ迎えるためにやってきたそうですが、しつこいんです。
どこへ逃げても、隠れても見つかるんです。
トラウマものです。
ストーカーにつけ回される綺麗なお姉さんの気持ちがよく分かりました。
しかし逃げ切れない時は、人間に囲まれ、「黒の賢者」などと恥ずかしいジョブ名（変更不可）をゲットする事になるのです。
無理です。ごめんなさい無理です。

パニックに陥りかけた私ですが、不意に違和感を感じて宰相を見ました。

私は故郷でも「羊」でしたが、宰相様は「人間」でした。
記憶違いでなくとも、背中に悪役っぽい、鱗に覆われた翼なんて持ってなかったはずです。

宰相様はいったん言葉を切ります。そんな大仰な知識は使ってませんが。

魂にはレベルというか、ステージという物があります。世界が違えば、乗っているステージはもちろん変わります。手順を踏まないと、私達が世界をわたれない理由でもあります。

そういえば、光を反射して淡く虹色に輝く白い翼は、さきほどのドラゴンのものでした。
…嫌な予感がします。

笑みを浮かべる宰相様の顔を呆然と見ながら、私は意識を手放しました。

少し考えたように瞬きをし、そうですか、とだけ呟いた。
呟いて、頷く。

死んだ魚のような目で、じっと見つめる。

耳へにゃーん。

キラキラ目。