――覚えていることは？
「白」
「白い、建物。研究所。白衣。」

――そこで、何をしていたの？
「戦うこと。訓練。武器の扱い方を、教わって。」

――貴女の他には、誰が？
「沢山。人だけは、沢山居た。変わらない年頃から、もっと幼く見える人まで。」
「管理する側と、される側。存在したのはその二種類。される側には番号があった。
番号しか無かったと、いうべきかもしれない。」

――家族は？
「『存在しない』。そう聞かされている。」



――貴女は、いつからそこに？

「――いつ？
……それは……。考えたことが、なかった。」



* * *



『zehn』

家族というものは、知らないけれど。
名前ですらない名前を呼ぶ、柔らかな声を思い出せば、
きっと、その温もりが一番そう呼ぶのに相応しいのだろうと思う。

『先週の結果を見たよ。優秀だね、流石は僕の、――だ』




ふと。目が覚めた。
未だ、違和感を覚える白くない天井。空。

……さっきまで見ていた夢は、なんだったっけ。



（時折消えゆく記憶の欠片が、そう組み込まれたものだからということに、
彼女が気付くことは無い。）

とことこと。影は歩いていく。