パンディーさんとそばがきちゃんと別れ、僕は今再び、今度は一人で森に来ている。

地下牢に行くつもりだったけれども…。
何故だろう。何か、忘れているようなことがある気がする。
思わず「ちょっと用事がある」と言って唐突に別れてしまったけども、
正直な所、それが何だったかハッキリとは思い出せない。

…まあ…多分、思い出せるよね。

一人になるのは久しぶりだ。最初に風早に会う前、ここに来てすぐの頃のことだ。
あの時は僕もメルンテーゼに来たばかりでひどく動揺していた記憶がある。
……泣きそうになりながらひたすら山林の中を歩いていたんだったか。

今思い出すと少し…いや、結構恥ずかしい。
いくら初めてこの世界に来て、思いっきり迷子になったからといって、
動揺しすぎじゃなかったろうか。

そういえば、そもそも僕は何故この世界に来たんだったっけ。
確かそうだ、元いた世界の

元いた世界？

あれ？

僕は別の世界から来た。それは間違いない。僕はそれを知っている。

けど、僕はどこから来たんだったろうか。

僕はそうだ、里から逃げ出して

なんで逃げ出したんだっけ？

訓練が厳しくて　それで

訓練って何の？

何？

何故？

何のために？


そうだ、しなければならないことがあるんだった
僕はここに来なければいけない
そんなふうに決められていた
ここに来る前から決められていた
この世界に来る前から決められていたことが


あー駄目だ駄目だ余計なこと考えるなって。
それは俺の領分だから。

……なんかつい強制終了させちまったけど大丈夫かねー。これ。
余計なことは思案させねえ方がいいからなぁ。
これぐらいならすぐに復帰するだろうし平気だと思うけど。

しっかし、なんで急にそっち方向に思考が行くかな。
今まで別段疑問も持たずに決められた通りに動いていたし、こんな風に想定外の挙動をしたことはなかった。

と、思うんだが。俺だって今までのケース全てを知ってる訳じゃねえし。

まあ、これについては思い当たるふしが無いでもない。

ただ、多分これ俺が考えてどうにかなる話じゃねえなァ。
かといって律儀に報告したらそれはそれで俺が死ぬんだが。さあーどうしたもんか。

まあ、とりあえず最低限の報告だけはしとかねえと。

それが俺がこの世界に来た理由なんだから。

ユメルは近くで蕎麦を打っている少女を指差し、唇だけを動かす。

Ｋ・Ｙ・Ｏ・Ｕ・Ｉ・Ｋ・Ｕ

と。

一瞬怪訝な顔をしたが、「ああ、一揆軍の。練習試合か」などと小さく呟いた。
得心がいったような様子で、しばし瞑目する。