戦いやその他の雑事を終えて床に就く前に、机に向かって、ああでもない、こうでもないと思考を巡らせる。
書くべき事の要点はすでに頭の中ではまとめてある。
簡素に箇条書きにでもするか、詳しい説明も交えつつ書くか……。

ペンを手にしてはいるものの、目の前の机に置かれた紙は依然として真っ白なままだ。

険しい顔をしてうんうん唸っている僕を見かねて、セリーナが心配そうに声をかけてくれた。

自分で書いた事がないとはいえ、他人が書いた報告書を目にする機会は何度かあった。
だが、その形式は人それぞれで、統一された規格のようなものはなかったから、いざ自分が書く事になるとどうしたらよいものか悩んでしまう。
騎士団の内部でしか読まれる事がない報告書、ましては任務の途中経過の報告だ。
内容が伝われば問題はないのだろうが……。

悩んでいる暇があればさっさと書き上げてしまった方がいいという事はわかっている。
それでも、報告書の細かい部分にケチを付けてでも、強引に僕の評価を下げようとする者がいないとも言い切れない以上、やっぱり気になってしまう。
そんなものを跳ね除けられるだけの実力なり実績なりがあれば気にする必要など微塵もないのだろうが、今の僕にはどちらもない以上、細かい隙でも作るべきではない。

僕の不安を見透かしたかのように、セリーナが問いかけてくる。

そう言いながら、さらさらとペンを動かす。
まずは、一揆の参加者の規模とおおまかな戦力、王側の戦力や拠点の配置、
山や森の獣など王の勢力以外での警戒すべき点、などを簡潔に書き出していき、そこに補足説明を加えていく。
散々考えている間に内容は頭の中ではまとまっていたし、文量も大したものではない。
書き出してものの数分で書き終えてしまった。

自嘲気味に呟いた後、書き終えた報告書を封筒に入れ、蝋でしっかりと封をする。

優しく微笑みながら、セリーナはそう言ってくれた。

あぁ、どうして彼女は、何かあるたびに、僕の心の小さな隙間を埋めてくれるような言葉を的確に言ってくれるのだろうか。

面と向かって言うのも少し照れくさいので、机の上に視線を落としたまま、囁くような小声で礼を言う。

昨日負った重傷は回復魔法でほぼ完治したとはいえ、疲れまでは抜けきってはいない。
その程度なら休まなくても平気ではあるのだが、回復魔法を使い続けたセリーナは僕以上に疲れていると思うのでしっかりと休ませてあげたい。
だが、僕が休まなければきっと彼女は休もうとはしないだろう。
セリーナにしっかりと休んでもらうためにも、彼女の言う通りに、早めに休んでおいた方がよさそうだ。

報告書を送信する作業が残っていたが、明日の朝でも問題ないので明日に回す事にしよう。

就寝前の挨拶を済ませると、そのまま倒れこむようにベッドに横になって眠りについた。