前回までのまとめ：悪寒はんぱねぇ

執事が何気なく呟いたであろう、その言葉に。
再び笑顔が凍り、身を強張らせ、危うく手にした武器すら取り落としそうになる。
可及的速やかに取り繕い、そうですね、と適当に短い相槌を返したが。
そして、何やら寒気というか嫌な妙な感じがしたが、目の前にいるのは彼一人。
特に何も変わった様子はなく、てきぱきと武器作製の段取りを進めている。
見学、否見張りは、まあ特に問題ないらしい。
寧ろお茶やら何やら、見張りに快適な環境まで用意してくれた。

（……てゆーか、ここまでしてくれるんだったら別に見張らなくても良かったかしら……）

ここまでされると、途端に面倒くさくなってくるのは何故だろう。
しかし表情には微塵も出さず、現在の金の杖の使い心地やら、次の杖への希望やらを執事へ伝え――どうしても、武器の名前が思いつかなかったのは、あれだが。

うつら、うつら。

見張りというのはまあ、暇なもので。
彼が一生懸命何やらやっているのをぼんやりと見ていたら、いつの間にか瞼が落ちそうになり、それを慌てて持ち上げる？
というかもう、寝て良い気がしてきた。見てなくても大丈夫なんじゃない、これ。
勝手な判断を下したが最後、夢に向かってまっしぐら。
夢路への途中、頭の中で反芻されるのは、執事の彼の呟いたあの言葉。

『いっそ解呪の方法を探すより、術者を探した方が早いかもしれませんね』

（……………。）

（―――いやああああ、もおおおおおお、まじ無理無理無理無理！！！あのカス男に会ってあの時はごめんなさい呪文解いてくださいお願いしますーぅ☆とか言うくらいなら、花に埋まって死んだ方がマシだわ！！！あーマジあの男、今すぐ三回回って滅びてくれないかしらー！もしくはもっと悪い女に捕まって財産ごっそりカモられないかしらー！何それ楽しそー！）

眠りに落ちる直前まで考えていれば流石にぼんやりと浮かぶ、懐かしくもなんともない例の男の顔。
眉間に皺を寄せ、そこはかとなく不機嫌げになっていく寝顔。

「…………チッ…」

赤い唇から漏れ出たのは、小さな小さな舌打ちの音。
落とした顎の下に、花弁の淵が触れ――障る。
首元に手が伸び――ぶち、と乱暴な仕草で花を毟った。