『追憶４』









――― 私は、『彼女』に、嫌われていた。







･･･これは、「紛れも無い事実だ」と“当時の私”は確信していた。

それと同時に、「仕方のない事だ」とも、理解していた。



それは、私が“物心付く”前･･･


･･･いや、もしかすると“生まれる前”から、「仕方のない事」だった。






私は年相応以上に敏く、そして、聡い子供だったのかもしれない。

･･･決してそれは、幸とは言えないことだった。




私に対する『彼女』の“戸惑い”。



･･･“不安”、“恐怖”、“焦燥”、“躊躇い”。

それらが混ざり合った、私に対する『彼女』の感情。




･･･敏い私にはそれらが、僅かながら鋭敏に、おぼろげながら手に取るように、

『彼女』の伏せる視線から、息を飲む動作から、虚空を切る手振りから、口籠り、瞬き、息遣いから

幼いながら、『彼女』の動作の端々に、“それ”を感じ取れていた。




･･･聡い私にはそれらが、何を意味するのか、どういう感情から出る所作だか、

言われずとも理解していて、彼女の心情を察し、私も『彼女』に対して、口籠り、瞑り、息を止めて

幼いながら、『彼女』の動作の理由を、気付かない“振り”をした。







――― だが、私は『彼女』のことを誰よりも、誰よりも大切に思っていたのだ。






“信頼”していた。


“尊敬”していた。



“敬服”し、“信愛”し


“感服”し、“親愛”し



“愛心”し“愛執”し“愛念”し“愛敬”し


“敬信”し“敬重”し“敬仰”し“敬愛”し













――― 誰よりも、『彼女』を“愛”していた。

ウィルトは　はいごに　いる　しょうじょに　きづかない

よろしくと　いいおわる　まえに　しっぽに　げきつうが　はしる

ウィルトは　あばれ　まわって　いる！

人影に対し穏やかな笑顔をしながら･･･銃を片手に近寄っていく。