楽器屋の店主が教えてくれた、音楽の練習にうってつけの、いくつかの公共スペース。
街の中心部であれば、まだ人々に余裕があるため、趣味の活動も盛んだ。逆に言えば、それは新参者のリナが定期的にスペースを借りることの出来るような時間の空きが望めないことを意味していた。
店主に勧められたのは、そういった中心部から離れた、比較的開発されて間もない地域…昔から根付いた住民があまり多くなく、新王の暴挙の影響を強く受けた地域。それでいて、まだ人々が疲弊しきっておらず、文化的な生活をぎりきりまで維持しようとしている地域のものだった。
そういう場所であれば一揆参加者は希望の存在として映るだろうし、新たな文化が持ち込まれることも歓迎されるだろうから…と。
リナは、そんな地域の公共スペースの一つに、足を踏み入れた。
楽器屋の店主から話を聞く限りでは、そこが一番、防音等の設備が良さそうに思えたからだ。

「いらっしゃい…見ない顔だね」

管理人であろうか…受付に腰掛けていた少し痩せ気味の初老の男性がリナに声をかける。

「ええ…ここには来たばっかりの他所者だから。
ここの音楽室のピアノの調律やってる楽器屋さんに教わってきたんだけど…ここって、地区に住む人じゃなくても音楽の練習とかに借りれるのよね？」

紹介元の事を聞いて、男性の顔が少し緩む。

「ああ…ダニエルさんとこのお客さん？
あの人も街から離れたここまでよく来てくれるよ…

ここは地区の自治会でやってるから、地区に住む人以外からは利用料を取るけど…それで良ければ貸せるよ」

まあ、まずは見てみると良い…そう言って、管理人の男性は立ち上がり、音楽室のみならず、この施設全体を案内してくれた。
調理実習室や舞台、会議室のような場所。趣味の集まりの他にも、何らかの集まりで利用することなどが出来そうだ。そして、音楽室にはピアノの他にもいくつか楽器があり、壁はきちんと防音仕様になっている。

「今のところはまだ何とかなってるけど、最近は自治会の皆も定期的な掃除の余裕がなくなってきてるから…使った後はちょっと気をつけて後片付けしてくれると嬉しいかな。

あと…借り方の細かい決まりはこっちにまとめてあるから、それも読んでから考えるんだよ」

そうして、管理人は利用案内をリナに渡す。
内容としては、利用のための手続きや決まり、料金体系について書かれていた。
借り方としては、一定時間の区切りでまとめて借りて、その料金を払う形のようだ。

「…そうね、週1くらいの頻度で借りれればいいかしら…ある程度決まった時間で空いてるところってある？」

利用案内を確認して、リナが定期的に借りたい以降を告げると、男性は

「ちょっと待ってね…」

と言いながら予定表を確認する。

「ここ最近は新しい王様のやってることの影響で手を引く団体さんが多くてね…木曜の午前と金曜・日曜の夜以外は決まったところは入ってないよ。
催し物をやる余裕も減ってきてるから、不定期に使えなくなることもあんまりなさそうだし。
…君も他所者ってことは一揆に参戦しに来たんだろう？機会があれば何か賑やかにやってくれると嬉しいねぇ」

そう、どこか冗談めかして管理人が言う。

「そうね…何か考えておくわ」

とりあえず、リナは二週間後の土曜の夜から一ヶ月分土曜日の予約を取り、その分の料金を支払った。

　　　　　　　背負った竹を肩越しに抜いた