蟹や貝のたぐいと戦ったあと、同行者の二人は平然と、それを食べる話をしていた。
それを傍目に、少しだけ、胸が痛む。

彼らには避けがたくそれが必要だと、わかっている。
わかっている、つもりだ。

私だって、いつまでも水だけで生きていくことはできない。どうしたって食事は必要だ。
まして角なしの人間の身体は、鬼の身体と比べて、どうやら飢えにはとても弱い。
日に二度、可能であれば三度、なにかを口にしなければ簡単に損なわれてしまう。

けれど心の奥底で、暗くひねこびた目をした私自身が、囁く声を止められない。

私は、他のなにか、生きているものや他人のもの、そういうものを奪い、糧にしてまで生きる価値のある存在ではない。
こんな希薄な存在のために、何を犠牲にする権利があろう。
いや、私だけではない。
ひとは生きるために、他の何かを平然と奪い去る。傲慢に、厚顔に。
そんな権利が、この世の誰に与えられているというのだろうか。
在りもしない幻想を、きっと誰もが、無邪気に盲信しているだけだ。

もちろん私自身、その囁きが、必ずしも正当だと思っているわけではない。
声の源が、胸の底のほうに巣食って離れない、かつて奪われ続けたあの日々の経験だとも知っている。
これはただ、ひどく個人的な好悪の、あるいは嫌悪の問題だ。

昔、かあさんと二人で暮らしていたころは、こうではなかった。
村からはそれとなく遠ざけられていたけれど、それでも私は、ごくふつうに食事をしていたはずだ。
そこに罪悪感はなかった。生きる営みの一環として、私のこころはそれを受け入れていた。

ならば今の私は、ほんとうはもう、生きていたくないのかもしれない。
食事を摂る気もなくすほど、なにもかも投げ出して死んでしまいたいと、どこかで、思っているのかも。

かあさんが守った、命。
かあさんの命と引き換えにこの手に残された命を。
そうとわかってなお投げ捨ててしまいたいほど、私は、だめになってしまっているのだろうか。

アニマに促され、マーメイドが水を作り…アルミのコップに注いで差し出す。

しきりに背後を振り返りつつ進む。