『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.18.13:22、とある研究所にて――


　ぽちは目を太線に変えると、桃色の身体を濃い桃色に変えた。照れの表現らしい。
「か、可愛いだなんて、そうかなぁ……」
　金属の翼を器用に折り曲げて顔を隠す。どうやら翼は単なる装飾のようだ。
ぽちは翼を動かさずとも宙に浮いていた。
「可愛いよ。ぽち。君も可愛いと思ったから、そう名付けたんだろう？」
　ダークの言葉に深く頷いた。実は適当に名付けたとは言えない。
「えへへ、可愛いなら『ぽち』って名前でいいよ」
「良い名前でよかったね。ぽち」
「うん」
　ぽちは嬉しそうに身体を前後に傾けた。頷いたらしい。
「えへへ。ぽちかぁ。ぽち、ぽち〜」
　ぽちは俺の掌に降りて、翼の先端を俺に向ける。
「ボクはぽちだ。今日から宜しくね。ミライ＝ツルギノ」
「宜しく」
　ぽちは翼の先端を差し出す。握手のつもりらしい。翼の先端を指で摘んでやった。
翼の金属は少し柔らかかった。本体とは異なる材質らしい。
「ねぇ、君のフルネームって呼びにくいから、『ツルギ』って呼んでいい？」
「呼びやすい名前で呼んでいい。それが呼びやすいなら、それでいいんだが、
ツルギってマスターの愛称なんだよ。俺は都合でマスターと同姓をつけられたんだ。
姓じゃなくて名前じゃ駄目か？」
「今後、君とボクは一蓮托生だよ。君のマスター、ショウ＝ツルギノは
ボクのマスターでもあるんだ。マスターのことはマスターかカイキューで呼ぶよ」
「カイキュー？」
　俺が首を傾げると、ダークが答えた。
「階級のことだね。軍隊の格付けみたいなもの。ミライ、判ってる？」
「あぁ、階級のことですか。それなら判ります」
　何の言葉か判断出来なかった。揺らぎがあるとよく判らない言葉もある。言葉の
揺らぎに対する判別がまだまだ甘いようだ。
「マスターの階級は少尉だったな」
「うん、それ。マスターはショーイだから、軍関係の人達が集う場所では
ショーイと呼ぶよ。普段はマスターでいいでしょ」
「う〜ん、マスターじゃなく俺がツルギと呼ばれるのはなぁ……」
「気にすることないじゃない。マスターをツルギと呼ぶ方が違和感あると思わない？」
「どうして？」
「資料で見ただけだけど、マスターが扱いに長けている武器は剣じゃなくて銃だよ？
君はマスターとは逆で剣術が得意なんでしょ？　君がツルギを
愛称にしてもおかしくないんじゃないかな」