アルダノクトは良き隣人である。
シェイドというその名に違わぬ陰のごとし性質でもって私を助けてくれる。
必要となった時に力を示し、それでいて必要以上には干渉しない。
これほどわかりやすい力の具現もないだろう。
多くを失ってしまった私には本当にありがたい存在だ。

だが不満点もある。
それというのもどうやらアルダノクトには実体がない。
いや、正確には実体になれるはずなのだが、固形的現象の及ぶ範囲のことでは私を手助けする気がないと言えばよいのか。
例えば人間の手では少々取りづらい場所にある物を欲する時。
例えば障害物の除去に思いのほか腕力が必要な時。
そのような場合にアルダノクトは私の奮闘を面白がって眺めるばかりなのだ。

なので、私はより近き隣人を急遽作ることにした。
実体的で、固形的で、かつ概念的で……そして何より私に協力的な隣人だ（もちろんアルダノクトよりも）。
確かエンブリオの中にもよく似た存在が比較的主流なものとしていたはずだ。
この世界にもさほど違和感もなく受け入れられるだろう。

エノスは近場に放っていた背嚢を拾うと何かを探し始めた。
アルダノクトは我関せずとばかりに付近を漂い、ヴィーヴィはぼんやりとした瞳――しかし興味津々な様子でエノスの行動を眺めている。
しばらくして目当ての物を見つけたのか、エノスは所在なさそうに佇んでいたちわわに近付いた。
その手には開封された魚の缶詰と、紅い生命の華が握られていた。