夜に冷やされた空気が漆黒の躯を隅々まで巡って行くのを感じる。

瞼を開き、金の瞳で周囲を興味深く見渡す。闇の中にあってもなお、その視線はどこまでも伸びていく。

躯は血に濡れているがしかし、赤には染まらず漆黒を湛えている。

傍らには血濡れのまま横たわる縞模様の巨躯。息も絶え絶えな彼女は視線をこちらに向け、ゆっくり息を吐いた。

彼女の傷口からはとめどなく命が流れ出し、地面に血だまりを広げていく。しかしそんなことは気にした様子もなく、視線はこちらに向いたままだ。

それからどれほど時間が経ったのか。漆黒の毛に浸み込んだ血が乾きだした頃、彼女は静かに眼を閉じる。

そっと近づいてみるがその瞼は閉じられたままだ。小さく鳴いてみても、巨躯は身じろぎもしない。

いつまで待っても彼女はもう動かないのだと、本能で理解する。

風が草木を薙ぎ、空に向かって吹き抜けていく。

つられて見上げた空には無数の光が思い思いに瞬き、自己主張する。しかしその中に、自分と同じ色は無い。

漆黒は大地に独り、取り残された。