『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.18.13:12、とある研究所にて――


　ダークの手の中にあるピンク色のメタリックの球体がくるりと回った。球体には
小さな黒い丸が二つ並んでいる。黒い丸は棒線になったり、丸になったりを繰り返し、
ふわりとダークの手を離れた。背中の一対の翼がぴこぴこと動き、頭上には金色の
輪っかが浮いていた。天使を模したロボットだろうか。
「マスターを守れる強さだって？」
　球体が喋った。球体は目と思われる黒い丸の上半分を線にする。
「力だけでは守れるものも守れないね。何も力が武器とは限らないさ。
ここを使わないとね」
　器用に宙を舞いながら、右の翼の先端で頭を指さす。腹が立つ……とは
思わなかった。馬鹿にされているのは間違いないのだが、それよりも他の
疑似的感情が勝っていた。
　様々な人間的思考に基づいて作られた疑似的感情は、それを『可愛い』と
結論した。丸みのある物体を可愛いという人間は多いらしい。
　ふわふわ浮いているそれを両手で捕まえて引き寄せる。大人の両手に収まる大きさで、
そこそこ軽めの金属で作られたロボットだった。
「きゃん！？　ぼ、ボクに何をする〜！？」
　球体は目を山形括弧の頂点が向き合うような形に変えて、翼をばたばたと動かせた。
「……僕？　お前、男なのか？」
「性別はないわ！　人間型ロボットじゃあるまいし！　ボクの一人称は
君に合わせてボクが選んでるだけさ！」

「この子はね。君のサポート用に作ったものだよ。
博士に聞いていると思うけど、君を直接改造、強化することは出来ない」
　詳しく教えてくれなかったが、改造出来ない事情があるらしい。
「そこで、せめて君には不可能な高度な演算処理を代わりに受け持つこの子を作った。
君の中に特定の相手とのみデータをやり取りする機能があるだろう。
その特定の相手がこの子さ。君専用のロボットだよ」
「今日からよろしく。ミライの好きに名前を付けてくれていいよ」
「じゃあ……ぽち」
　ペットの犬の名前でよく使われているらしい名前だった。
可愛いロボットには可愛い名前が合うだろう。
「おんどれ！　わいは犬とちゃうぞ！」
　球体、ぽちが目を釣り上げて怒鳴った。犬によくある名前だと知っていたようだ。
仕方なく猫の名前にしようかとしたら、賛同があった。
「ナイスなネーミングだね。ぽち、可愛くて良い名前じゃないか」
　それはダークだった。