闘技大会に参加すると言う事さえ、卯の花腐しにはピンと来ないものがあったが、
大会の前に、全員で顔をあわせて共に進攻するというのも、顔をあわせている今でさえ現実味が無い。

相手方は兄弟で世界を渡ってきたというので、黒髪の少年もそうかと思っていたが、どうも少年の方は彼らに護衛される側という関係らしい。
身分でも高いのだろうか。
（けれどユキナも彼女の妹弟達も、彼に向ける表情は家族のように愛情に満ちている）


ユキナの右腕は鋼鉄で覆われている。
まさかガントレットではあるまい。義手だ。


幼い弟と妹は、夜になると満月を顔に見立てて、すすきで翼や髪を作って掲げては、
「ほらみて、うのぴー（これが卯の花腐しの愛称らしい）のできあがり」
といって無邪気に笑っているので、卯の花腐しは少し息が抜けたような気分になった。

賑やかで楽しいと思う反面、しかし時々大所帯は苦手だ。
夜になったら少し出歩いてしまおうか。


（自分は足手纏いにならないだろうか）
（剣を振る間合いを間違えないようにしなければ）
（自分だけを考えてはならない。周囲を常に把握して、直ぐに判断して――）

（嗚呼、）
（いつか同じことを考えた事がある）

順々に掌で相手を示して、

アーシェと卯の花降しの二名と合流して以降、
ユキナやミルコロ達の後ろに隠れてばかりだ。
かと言って無視するわけでもなく、じっと陰から二人を見ている。

偶に目が合うと威嚇音？を出してさっと顔を引っ込める。
が、またすぐにちらちらと視線を向けてくる。

逆に卯の花腐しのほうから差し出され、驚いたように身が強張るが、
言われた通りに具合を感じ取ってみる。
最初出会った時のような儚さは無いように思えた。

その表情は複雑だった。
自分を情けないと恥じているのか、仲間への決まりの悪さか、
水に安堵を感じ、同時に火精として戸惑っているのか。本人も計り兼ねている様子だった。

そう一言、弱々しく返すだけだった。

しかし世界を渡らなかったら会えなかった。
聞き取れるかどうか、分からぬ程の細い呟きが最後に漏れる。
誤魔化すように僅かに目を逸らした。

と、ちょうど良い力加減で握手していた手をそっとほどく。

まぁさして困る事もないのだけれど、と付け足して彼女の癖なのかこてんと首を傾げた。

剣を構え、屈強な敵陣を正面より迎え撃つ。