「んー」

僕は唸っている。

この状況が動物園みたいと言われたからだ。
動物園というのは、様々な種類の動物達が狭い檻に閉じ込められているのを外から観察するという大変悪趣味な娯楽施設の事である。

という認識でいたら訂正された。
おかしい。あの人が、何でも知っている女団長から聞いたという世界中の悪趣味列伝のひとつだったのに。
一緒に歌を歌っている時に交わしていた他愛もない会話のなかで僕が怒り狂った話題のひとつでもある。
余り感情を見せないあの人が唯一本気で動揺したところを見せた場面でもあった。

ライニアルを見る。
目を細めている。
ライニアルのまわりのその他大勢を見る。
身体が大きいからといってライニアルに群がって日向ぼっことは何ともけしからん話だ。
けしからん話なのだ。
僕が許さない。

「グルルルル」

僕は唸ってみた。
渾身の真似である。もちろんライニアルの唸り声の真似だ。

誰も聞いていなかった。

キリーさんに相談してみようか。
間違えた。キリエさんだった。
あの人は優しい。ライニアルの火傷の心配をしてくれた。
でも少し話しかけづらい。

ブーさんに相談してみようか。
駄目だ。近寄れない。

だったらエンドゥーさんだ。
ラグさんもいる。
きっと話せる。
一大決心をしてエンドゥーさんのところへ行ってみた。

「エンドゥーさん」
およそ人間30人分ほどの距離から話しかけてみた。
僕の声は小さかったらしい。
エンドゥーさんは木陰で本を読んでいるまま気づいていない。
ラグさん……はどうやらここにはいないようだ。

「エンドゥーさん」
およそ人間10人分ほどの距離から話しかけてみた。
僕の声は小さかったらしい。
エンドゥーさんは木陰で本を読んでいるまま気づいていない。

およそ人間3人分ほどまで詰めてみた。
ほう。
凄いな。この仮面。
どういう素材でできているのだろう。
女団長が気に入りそうな代物だ。
もっとも、彼女が気に入ってしまえば最後、エンドゥーさんの生首ごと飾られるに違いないが。
しばらく眺めてしまった。
そういえばこの人は人間だった、と思い、顔が熱くなったので人間10人分ほどまで後退した。

ん？
エンドゥーさん、僕の気配に気が付いていない？
おかしい。
戦闘技術に優れている彼ならこの間合いで気が付かないわけがない。
つい先ほど熱を帯びた顔から血の気がひくのを感じた。
背中の荷物から救急箱を取り出す。
どうしよう。こういう時はどうしたらいいのだろう。

再度エンドゥーさんに近寄ってみた。
恐る恐る呼吸を確かめてみ

「死んでる……」










ここで意識が一度途切れた。

目が覚めるとラグさんの顔が目の前にあり、驚きのあまり人間50人分ほどの距離をとった。
ラグさんはひたすら謝りながらこちらへ寄り、近くに来るとまた謝った。
エンドゥさんの近くで僕が挙動不審な動きをしていたのでつい魔がさしたという。
「死んでる」と言ったのはラグさんだった。
こちらこそ申し訳が立たず、ひたすら謝った。
エンドゥーさんは居眠りをしていただけなのだった。
そんな暖かい木漏れ日に集う日和な一日だった。

ところでエンドゥ氏なのだが、僕が意識を失うか失わないかの間に殴ってしまったらしい。
僕とラグさんが謝り合戦をしている間はエンドゥーさんは死の淵にいたらしい。
大変申し訳ない。

という、楽しい一日の事を記しておこうと思った次第だ。
完結。