言ってしまえばおれは部外者だ。

生まれも育ちも別の街。

こっちの高校に通うために、外からやって来た余所者だ。

今でこそ第二の故郷のように思っているけれど

おれがどう思っていようと、根っこにある事実は変わらない。








―――『ひとまず、イバラシティの味方に付いていただきありがとうございます。』
　
―――『イバラシティのために、ブチのめしちゃってください。』








だから、どうしてハザマに呼ばれたのか不思議だった。

イバラシティだって、できれば自分を大事に思ってくれている人間を味方にしたいはずだ。

なにかの手違いかとも思ったし、だとしたらとんだ迷惑だとも思った。

強制されない限り、そんな戦争なんて危険なもの。絶対参加しなかったのに。

異能も感情もうまく制御できない。帰りたい帰りたい。

グズグズぐずぐずgzgz…………と考えながら

体に染み付いたスマホ欲を満たすためにCross+Roseを開いて。

宛先リストの中に我孫子の名前を見た瞬間、おれの心の掌は180度ひっくり返った。






……ここに呼ばれていなかったら

おれは知らない間に我孫子を忘れていたんだろう。

忘れたことすら気づかなかったかもしれない。






事実、今でもおれは部外者だし、それは死んだ後でも覆らない。

でもそうならずに済んだのは

お前が神様の役をほっぽり出さずに

イバラシティとの縁を断ち切ることなく

おれを見つけてくれたおかげなんだろう。

▲	少し高い位置にある横顔を見上げながら、 明日になれば忘れてしまうような 他愛もない会話が弾む。 この非日常な世界で、2人の会話だけは どこまでもいつも通りだ。

	不意に、荒れ果てた荒野に吸い込まれて 消えてしまいそうな声が耳へ届く。 いつもなら包み隠されて、煙のように揺らいで見えなかった 彼の本音がこぼれていく。 同じように視線を落とせば、歩調に合わせ 白い手が隣で揺れている。 一瞬ためらった後、そっと自身の手を重ねた。

	我孫子 「……うん、怖い…。」 大丈夫だと、自分がいるからと、 そんな言葉をかけるべきだったのかもしれない。 けれど、結局出てきたのは、今の自分の正直な気持ちだった。

	我孫子 「36時間経ったらどうなるんだろうとか、 どこでもないって、何処に行くんだろうとか。 ちゃんと、覚悟決めて選んだはずなのに、 わからないことばっかりで怖い。」 繋いだ手に力がこもる。

	我孫子 「……僕、アンジニティとちゃんと戦えなかったから…、 イバラシティの人たち、母さん、父さん、クロも……、 みんな、否定の世界に落とされるかもしれないのに…、 なのに、お前と一緒にいたいって気持ち、どうしても曲げられなくて……。 自分だけ、逃げて、 ……ごめん…、こんなこと言われても困るよな……。 ごめん……。」

	まとまらない感情が、そのまま言葉になってあふれ出す 負い目が、贖罪が、懺悔が、胸を焼いていく

	我孫子 「……それでも、お前の隣にいたい…。」

	消え入りそうな声が、ハザマの荒野に溶けていく。

▲	イツハ（憑依） 「それはもう、こんな理不尽な巻き込まれ案件はありませんので！ 従ってやる通りなんてないというやつなのですよ。 どうにも向こうも一枚岩じゃないみたいですし、お姉ちゃんなら何とかできると信じているのですよ。 だからもちろん、"皆"の中にぼくらも入っていますよ。 お姉ちゃんと離れるなんて考えられませんから！」 この状況で不安にならないのは難しい。 特別メンタルが強いわけではないイツハも例にもれず不安はある。 けれど“お姉ちゃん”を信じ切っているからこそ悲観的にはならず前を向いていられるようだ。

	四葉 そうして先輩の視線が四葉へと向けば、何処か困ったような曖昧な笑みを浮かべている。 「イツハが信じてくれる限りは、手を尽くすつもりですよ。 さっきも少し話した通り本当は私の体をあげたっていいんですけどね。 イツハは絶対何とかするからって言って聞かないんです。 だから奇跡を探しますよ。大変なことですけど、私もイツハといられるなら幸せですから。 イツハの選択で問いには『ハザマ』と答えましたが、私個人としては貴方が愛する人といることを願ったように、イツハともにあることを選びますもん」

	イツハ（憑依） 「もし元通りに戻っても、イバラシティで必ずお姉ちゃんに体を返す方法は探しますしね！ そのときは先輩も少しは手伝ってくださいね？ かわいい後輩が困ってるのですから、少しぐらい気にかけてくれてもよいと思うのですよ！」 図々しいことを言いながら、またいつもの調子で。 「それにしても、我孫子先輩が相手だったとは……。 先輩の異能バリアでしたし、男らしいこと言ってましたけど稲生先輩守られる側なのでは？」

	イツハ（憑依） 「ともあれ！ 大切な人と一緒にいられる限りはつよつよなのでぼく達も先輩たちもこんな状況には負けませんよね！ また先輩の可愛い可愛い後輩が手作りピザでお祝いしてあげますので、無事で再開をしましょう。 約束なのですっ！」

▲	――――通話ウィンドウは黒いままだ。 　あなたの必死の問いかけは虚しく、赤黒い異界の空へと消えていく。

	怪物に声は届かない。 　怪物はほんの十数秒前に、この世の全てとの決別を済ませてしまった。

	歩く死体だった怪物は、泉下へと己の立ち位置を改めた。 　殯は、死を認めるためのもの。 　正しい往生をし損ねた存在が、その未練を断つためのもの。

	そして彼女は、この世へ己を繋ぎ止める未練の糸、 　その最後の一本をたった今断ち切った。 　歩き廻る死者は今、正しい意味で死者となった。

	返事はない。 　通話ウィンドウは、冥府の底のような黒だけを映している。

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パーティ名でふざけるな ENo.751 くもよび ENo.1282 ヨル

秘密結社フリーパーソン ENo.606 雀部 ENo.607 我孫子

マシカ区 J-8：チェックポイント《黒い渦》

秘密結社フリーパーソン ENo.606 雀部 ENo.607 我孫子

立ちはだかるもの 守護者《RABBIT》A 守護者《RABBIT》B

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1人の声だけが響いています。