【助けを求める声がした】
視界が光に包まれる。
逃げなければ、狼が目の前に……、まぶしい、前が見えない、なにが起こったのだろう。
もう襲われていてもおかしくないはずなのに、なにも感じない。
徐々に光が弱まり、視界が開けていく。
木に何かが叩きつけられた跡、その根元に倒れ伏す狼。
「……へ?」
狼が吹っ飛ばされた? 何が起きた?
そうだ、ざりおはどこにいった、彼は自分を助けようと、狼に向かっていたが……。
視界の上方に何かが映る……ざりおだ! 吹っ飛ばされて落下している!
助けなければ、いや自分の力では……そう考える間もなく、突如視界が飛躍した。
腕にざりおを抱いた感触。木々を見下ろしている。あそこは一瞬前まで自分がいた場所だろうか。
のんきに考える間に、重力加速で落下し、着地した。衝撃で地面が抉れているが、脚に痛みはない……よかった。
…………
「
えっ……えぇ!?」
いやまておかしい、なんだこの力は。耐久力は。
そんなアナの姿を見て、腕の中のざりおは目を丸くしている。
「……アナ、その格好……もしかしてマジカルチェンジャーが……」
「え? ……ええなにこれ!?」
自分の服装を見て驚愕の声を上げる。
さっきまで来ていた緑のパーカーは無くなり、青い、なんというか……魔法少女っぽいコスチュームを纏っている。
しかも腹出し。彼女は体型をけっこう気にしている。これは大問題だ。
「もうわけわかんない……。そうだ、さっきの狼って……」
「あれは、あの男が変身した……、
避けろアナ!!」
生ぬるい風と共に駆ける足音。男が剣を構えて迫っている!
「え!? あ!?」
アナは咄嗟に、
拳を放っていた。
拳が男のみぞおちを捕らえた。その刹那。
"嫌だ" "許さない" "もうやめて" "なにをする" "助けてくれ" "殺さないで"
頭の中に無数の声が響いてきた。
恐怖、憎悪、憤怒、後悔。胸の奥に突如襲い来る感情の渦。
息が詰まる。吐きそうだ。これはなんだ? 自分の感情ではない。
考える間に、拳を抉り込まれた男は吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
「おいアナ! ……逃げるぞ!」
ざりおは声を張り上げる。
短時間に二度の大ダメージ。あの男も流石にすぐには動けないだろう。
「あっ、うん、え、どこに!?」
走りながら問いかける。
「ベースキャンプだよ、あそこならひとまず、ここよりは安全……」
ざりおは呻き、顔をしかめる。
そうだ、彼は今大怪我をしている。ハサミを一本失っているのだ。
「うん、そうだね、行こう。治療もしなきゃ……」
「ザリガニは自切するもんさ……見た目より酷くないから、そう心配すんな」
心配そうにのぞき込む彼女に、ざりおは目を細めてほほ笑みかける。
「ざりお……優しいよね……」
もう十分離れただろうか。腕の中の彼を優しく抱きなおし、脚を止める。
そのまま呼び出した次元タクシーに乗り、ベースキャンプへと帰還した。
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帰還した二人。
一息つき、怪我の手当てをしている。
「疲れたね……」
元の服装に戻ったアナ。そう言って大きく息を吐いた。
「そうだな、今回は流石に……」
「あ、すみません」
顔を上げると、眼鏡の青年が二人を見下ろしていた。
ボサっとした重い黒髪、深緑の地味なパーカー、目はジトっとしていて、何を考えているのか分からない。
見るからに胡散臭いその青年は無表情のまま、言葉を続ける。
「こんばんは、アナ・モーリスさん、埜野ざりおさん。
アパートで待っていれば来るかと思っていたんですがね。
あまりに遅いもので、こちらから来てしまいましたよ」
淡々とそう話す彼を見て、アナは目を丸くした。
「え、……か、管理人さん?」
「ええ、俺はビッグフォレストコヌマの管理人さん。
……ということになっていますね。あちらでは。
名前は大森 心(おおもり しん)です」
「ん? あちらって、お前まさかアンジニティ……!?」
身構えるざりおに、まあまあ、と軽く手を挙げて見せる。
目線を合わせるように、その場に胡坐をかく。
「落ち着いて、危害を加えるつもりはありません。
俺はアンジニティの咎人ではなく、"博士"の命令でイバラシティに来た者です」
「博士?」
「ええ、あらかじめ言っておきますが"博士"の情報は話せません。口止めされているので」
「なんだそりゃ……」
ざりおは呆れ顔だ。
「"博士"はあなた方二人をご指名でした。
マジカルチェンジャー、やっと起動したようでなによりです」
「え、この、このアプリって、あなたが……」
アナの言葉を遮るように、ざりおが身を乗り出し。
「おい待て、じゃあ俺の……」
「ええ、アナさんのマジカルチェンジャーも、ざりおさんのブレイブチェンジャーも俺が送りました。
"博士"の作品なんですが、役立ってますかね」
「まあさっきも、アプリがなきゃやばかったけどさ……」
ざりおは訝しげな目を向けながらも、体全体で頷く動作をしてみせる。
「じゃあ、そもそも何が目的なんだ?
なんのために俺たちにアプリを……」
「ふむ、そうですね、どこから話したもんか……」
大森さんは腕を組み、しばし考え。
「結論から言いますと、アナさん、ざりおさん。
あなた方に殺してほしいんです。
先ほどお二人が戦ったあの男……
アルキメンデスを」
素っ頓狂な顔をする二人。
どうやら、長い話になりそうだ。

[817 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[442 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[479 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[200 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[408 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[327 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[265 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[192 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[111 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[145 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[145 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[304 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[41 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[208 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
[92 / 300] ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
[104 / 200] ―― 《図書館》蜂のように刺し
[96 / 200] ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
[46 / 200] ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
[80 / 100] ―― 《珈琲店》反転攻勢
[100 / 100] ―― 《屋台》更なる加護
[62 / 100] ―― 《苺畑》不安定性
[9 / 100] ―― 《荒波》強き壁
[100 / 100] ―― 《小集落》猛襲
[24 / 100] ―― 《落書き壁》リアクト
[45 / 100] ―― 《変な像》揺らぎ
[2 / 100] ―― 《白い渦》不幸
[88 / 100] ―― 《黒い渦》不運
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
少女
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少女 「・・・・・・・・・」 |
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少女 「まだこうして発信できるだけ、この呪いにも温情があると信じたいわね。」 |
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少女 「・・・長くは分身が許さないかしら。私の力なのに、本当にひどい話だわ。」 |
少女がつぶやく。
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少女 「・・・・・・・・・」 |
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少女 「私はこの呪いを終わらせたいのです。そのためには―― ザザッ・・・」 |
雑音で声がかき消える。
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少女 「――やっぱり温情なんて無いわね。 私の意思なんて呪いの監視の外側から、少しだけしか。」 |
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少女 「・・・これが最後の問い、最後の足掻きです。」 |
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少女 「貴方は、何処に居たいですか?」 |
チャットが閉じられる――