銀色の、月のペンダント。
安直かなって思ったけど、喜んでくれてよかった。

でも。ぼくの手で着けて欲しいって言われた時は、少しだけ驚いてしまった。

言われなくても、初めからそうするつもりだったから。
だから、何か悟られでもしたかなと思って。




最初から“こう”したかった口実だって、気づいてないよね。
当然か。ぼくらは友達なんだから。



あっさりと腕の中に捕らえてしまった人を見て、もう少し距離感には気をつけた方がいいだろうに、なんて思う。
……ぼくも他人に言えないのかな。そうかも。





でも今は、誰にもはしないんだ。

そのことも、贈り物のペンダントの意味だって。
きみは知らないと思うけど。

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昔から。

昔から、恋人たちの交わす「好き」というものが分からなかった。
友達に渡す好きと、何が違うのだろうか、と。

画面を隔てた向こうでは毎晩と言っていいほど、カップルが仲睦まじく物語をなぞっている。

それを手持ち無沙汰に眺めることも時折あれば、
家族のチャンネル争奪に巻き込まれた挙句面白可笑しいバラエティの波間に消えていくのを見送る時もあった。




自分にとって、恋愛の標本はそれだけだ。




向ける相手が違うだけで、どうして同じ言葉が特別なものになるのだろうか。
世間で当たり前のように共有されていることなのに、私には分からなかった。

幼い頃は好奇心に素直であったから、その概念を知ってからしばしば、親代わりの人に聞いてみることがあった。
決まってその度に、困ったような、優しい顔をされた。
それは答えのひとつではあったのだろうけど、幼い自分にはその機微が分からなかった。

疑問は、いつしか外に問うこともなくなったけれど。
心の内ではいつでも、隅の方に残されていた。











なんとなく。……特別な理由はない。
自分がヒトの"サガ"に沿わない異物であったからかもしれないけれど。
このまま、分からないままで良いと思っていた時もある。

そうやって分からないものを諦めることは、生きやすいひとつの在り方だから。
自分とは分厚く仕切られた、画面の向こうにある架空と同じ。そう考えれば、ずっと楽だった。

怖かったのかもしれない。
誰かと誰かだけの関係が、ひとところに取り込まれてしまうことが。
そしてそこに私が居ないことが。私だけひとりにされてしまうことが、怖かったのかもしれない。

或いは、無理矢理に引き摺り込まれてしまうことが。














けれど、それで。
そうした我が儘が、誰かを傷つけることもあると知った。
その無知で、辛い思いをさせた大切な友人がいた。

だからまた、目を逸らさないよう。少しずつだけ考えるようになった。
そうやって他人を傷つけてしまうことの方が、ずっと辛いことだから。



結局。知らずにいることは自分のためで。
そして知ることは、誰かのためでもあるから。



「好き」の違いを知らないままというのは、もう嘘だ。













……そうは言ってみても、だ。
やっぱり、自分はその違いを理解しきれてはいない。


声を聞けば胸があたたかくなって。
もっと触れて欲しくて、知って欲しい。
心が安らぐから、ずっと隣にいて欲しい。


それは、友達にそうして欲しいと思うのと。何も変わらないから。







でも、確かなことはある。





きっとこれは。この気持ちは。

普通と違う、「特別な好き」なんだと思う。



曖昧な境界の上で、どちらの好きも選ぶことにした。
……思ったより私というものは欲張りで、狡い人間らしい。
とうの昔から知っていたことを、そうして、また新しく知った。



































だから。本当のことは教えてあげない。

どうか、友達のままで。

▲	「だって、本当のことですから。 　……こうやって話してくれるから、もう大丈夫ですけれど」

	「そっか。 　ふふ、うん、でも、……気持ちはわかります。 　おれも……夢だといいなって、最初は思ったから」

	と、そこまで答えて。 あなたに投げかけられた確認には、すぐ言葉を返さない。 ようやく口を開いて返した声も、答えではなく。

	「…………ヨシノ」

	「……あの、…………」

	「……この、……戦いが、終わったとき。 　…………ヨシノは、どうなるんですか？」

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