
ストライクス警部を軽くいなし、現場を調べる許可を得た探偵は、依頼人と共に、屋敷の玄関を潜った。
華やかではないものの、ブラウンとホワイトを基調とした調度で上品に設られたホールは、この状況においても静かに来訪者を迎え入れた。
「旦那様の部屋は廊下の突き当たりで……あっ」
先導しようとしたニコレットの言葉が途切れる。廊下の奥から一人の女性がこちらに歩いてきたのだ。
ニコレットと同じ制服を着た、20代前半と思しき若い女性だ。
「おかえりなさいニコレット。あら、その人は…」
女性は怪訝な顔でニコレットに問いかけた。
「あ、ええと、リトゥラさん、この方は…」
狼狽するニコレットの言葉を遮るように、探偵が名乗る。
「チャコール・タール、探偵だ。アンタがもう一人の使用人か?」
いつもより随分と素っ気ない、もはや不躾な物言いに、ニコレットは驚く。
女性は微かに眉を潜めながらも、一度小さく咳払いをし、取り澄ました表情で、不躾な探偵に
「ええ。私はこの屋敷にお仕えする使用人、リトゥラ・スポドプテラと申します。チャコール様…でよろしいですかね。
何かご用で?」
「え」
あまりに露骨な当てつけに、ニコレットは当惑した。普段のリトゥラは、冷静ながら優しい人なのに。
やはり、主人が死んだという現実に、ニコレットもリトゥラも、混乱を隠せていないようだった。
探偵は皮肉をものともせず、とぼけた様子で答えてみせる。
「昨日、この屋敷の主人が殺されただろう。その調査に来たんだ」
「…あなたが頼んだの?ニコレット」
呆れ果てたようなリトゥラの視線が、ニコレットに向けられる。
「は…はいっス、旦那様がどうして亡くなったのか、知りたくて…」
リトゥラは頬に手を当て、ため息をついた。
「旦那様が亡くなったのが受け入れられないのはわかるわ、ニコレット…でもね、ちょっと夢見がちすぎるんじゃなくて?警察の方が心中だと…自殺だと言っているのに、そんなーーーーーー」
「決めつけは良くないな、お嬢さん。」
やや大きな声で、探偵が会話に割り込んだ。
「依頼を受けた以上、自殺か他殺かは
俺が調べて判断する。お忙しい警察の皆さんでは、捜査しきれていない真実があるかもしれないだろ?そんなわけでひとつ協力してほしいんだが、リトゥラさん、アンタ昨日の夕方は何をしていた?」
いつの間にか、小さな黒い手帳とペンを手にしている探偵にそう問われ、リトゥラは憮然とした態度で探偵に問い返す。
「…私を疑っていらっしゃるんですか?」
「そんな事はないさ。だが真実を知るためには、当日のことを細かく調べる必要があってね。教えてもらってもいいかな」
煙のように掴みどころのない探偵は、煙のように纏わりつく、執念深い探偵でもあった。
やや苛立った様子でリトゥラは語り出す。
「…私は昨日、旦那様の言いつけで、遠方の煙草屋さんに煙草葉を買い付けに行っておりましたわ。それで夕方まで外にいましたの」
「煙草か…ポールモール氏は愛煙家だったのか」
「ええ。昔から刻みタバコを愛飲しておられました」
「ふぅん…惜しい人を亡くしたもんだ」
愛煙家特有のシンパシーでも感じたのか、探偵はよくわからない哀悼を口にし、質問を続けた。
「ところで、この屋敷で働いているのは、アンタと、ニコレットと、それから殺されたメイドのーーーーーー」
「キャスター。キャスター・ウィンストンですわ。彼女は主に料理当番をしておりました。とても料理のうまいメイドだったんですのよ」
「じゃあ、庭の手入れは誰が?」
「月に数回、外の庭師を呼んでおりますわ。旦那様はそこまで庭を凝る方ではなかったので、それで十分でしたの」
「そうか。だいぶわかった、ご協力ありがとう。ニコレット、案内してくれ」
そっけない態度で礼をすると、探偵はリトゥラに興味を失ったと言わんばかりに、ニコレットに向き直った。
「は…はいッス!」
言われるがままにニコレットは案内を再開した。その背に、突き刺さるようなリトゥラの視線を感じながら。

[861 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[443 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[500 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[192 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[393 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[295 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[214 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[150 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[72 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[131 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[121 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[151 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[12 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[46 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
[3 / 300] ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
―― Cross+Roseに映し出される。
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ノウレット 「呼ばれなくても出てきちゃう☆ノウレッ――」 |
ノウレット
ショートの金髪に橙色の瞳の少女。
ボクシンググローブを付け、カンガルー風の仮装をしている。やたらと動き、やたらと騒ぐ。
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ノウレット 「・・・・・・・・・」 |
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ノウレット 「え、誰もいない! ・・・・・何か落ちてます。・・・・・・・・・紙切れ?」 |
紙切れ
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ノウレット 「・・・えっとぉ・・・・・」 |
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《 サボってみます。 案内役一同 》 |
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ノウレット 「・・・・・・・・・・・・」 |
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ノウレット 「えええぇぇぇぇ・・・・・・・・・」 |
チャットが閉じられる――