「お前、魂を二つに分ける事は可能だと思うか?」
突拍子もないその問いは常人であれば、否、それ以外の者であっても首を傾げる問いだと思う。
「なんです?急に……」
「いや、元死霊術師殿の意見を聞きたくてな」
「それは……そうですね、話が長くなりますが宜しいですか?」
見えているわけではないが、電話口でつい頷いてしまう。
頷いた後、返事を返し、手短に頼むと加えて。
「わかりました。これは一般論ではありません。まずはそこを了承ください。
まず、結論から述べますと、魂の分割は可能ではあります。
何故かを説明致しますと……」
この出だしから察するに、相当長くなるようだと感じた。小さく吐いた溜息が聞こえてしまっただろうか。
「生物というものは、身体があり、それを動かすのは"脳"であるのはご存知ですね?
脳が作動する為の原動力は心臓であり、血液。
うち……いえ、ローゼンクランツ教皇家はそこに魂は"不要"であると、そういった教えがありま す」
「……?ではなんだ?我々には魂など存在しないと、そう考えるのか?」
「はい。感覚から思考も全て、脳により生み出されるものであると。
けれども、魂が存在しないとは言えません。
ですから、"存在しない"ではなく、"不要"なのです」
頭に疑問符ばかりが浮かんでしまう。
詰まるところ、何が言いたいのか全く理解は出来なかった。
「……仮にも教皇家ともあろうものがその様な教えを。
加えて死霊術師が言うと戯言にしか聞こえんな」
「でしょうね。表向きは他の国々の宗教と変わらない教えを説いておりますから。
これは教皇家だけにおける教えなのです。
魂とは、それまで生きた"生を記憶する媒体"であると。
脳で記憶したものを共有し保存する他、脳の記憶領域に留まらなかったものも全て記憶する。
神は、我々生物の死後、その御魂より生けるものの"データ"を収集し、それを元により知識を得、高性能な生物を作り出す」
「……まるで科学者か何かだな」
携帯を持たぬ方の手でがりがりと頭を掻く。
我々は神ではない。故にその目的も、向かう先もわからない。知る由もない。
そしてそれは神ではなく、あらゆる生物にとって同じことではある。
「死して神に回収された魂は、そのものの"一生"のデータを抜かれた後、神によって"初期化"され、そうして再び創られた生物へと送られる。
……まあ、こんなところでしょうか。
ですから、その"中身"が分析できるのなら、理論上は魂の分割は可能であると思うのです」
中身を分析し、それを"分ける"。
例えば、今時で言えば、一つのメディアカードがあったとして。
その中のデータにフォルダを二つ作り、分別し、一つを取り出す。
空っぽの魂、若しくは、代わりになる媒体にそれを移すことができたのならば……。
「
わからんな」
「……でしょうね。
教皇は……転生する前の私の"義父"はそれを使い、数多もの知識を手に入れ、
世界を創造しようとしておりました。
私が死霊術を教皇から学んだのも、その理由からです。……教皇は転生を繰り返し、自ら神になろうと」
「教皇の話は今は良い。関係の無い話であろう」
いよいよもって、頭がついていかなくなった。
アナログの世界に生れ落ち、アナログの世界で育ち、アナログの世界で数千年も……
「あ……、」
頭は追いつかぬというに、こういう時に限ってピンときてしまう我が頭を呪ってしまいたい。
「私が、辺見悠吏として転生しても記憶を保持しているのは……」
「……。」
「
――お前、私に、何をした?」
――――――――――――
遥か昔、まだ軍人であった頃。
仕えていた主が亡くなって幾何。
軍内部から"秘密を知る者"として
排除されかけていた時
一度、リコに殺されかけている。
死霊術によって"魂"を抜かれ
抜かれただけではなかったのだろうか。
――――――――――――
「
……変なところ、鋭いんやなぁ」
携帯越しにぽそりと呟き。
小さな溜息と共に聞こえてきた。
「私が、貴女をただ殺すなんて……思わないでしょう?
私は貴女がいなければ、奴隷として一生を終えていたか、あの場で焼け死んでいましたから。
……私は、お世辞にも幸せになる事なく"ヘンリエッタ"としての生を終えられるのが許せなかったんです。
家名の為に愛を与える事のない両親に尽くし、主の為に尽くしても利用され、都合の良い存在であることに」
ゾッとしてしまった。
その思考は常人の域を超えている、そんな気すら感じてしまった。
「だって、貴女は私の"お母さん"みたいな存在でしたから。
恩人で、育ててくれて、なのに、そう慕う母を、私にとってたった一人の家族を、皆、
皆、
皆!!皆、都合良く利用するだけ!!利用して!!捨てて!!
……なら、リコが、助けてあげなきゃ、って。せめて……報われてからって……」
「リコ、落ち着け」
「……っ、すみません」
震えた声が伝わってくる。
少しばかり恐怖を感じながらも、溜息を一つ吐けば
「貴女を一度殺そうとしたとき、魂を抜いて、それを結晶化した後、中から"生の記憶"を抜き出す
つもりでした」
それは一輪の白百合の花に擬態させ
「……摘み取る前に、阻止されて、失敗したのです。
だから、咄嗟に、貴女の魂にロックをかけました。記憶を消されないように」
「あの時、のか……!」
「私は、阻止され殺されましたが、……いつか生まれ変わったら、その時は、恩を、と思って」
自分の魂にもロックをかけたのだという。
それは誰も知らない。
それは誰にも伝えていない。伝えてはならない。
ただ、己が欲の為に行った、禁忌とも言えるそれを。
「これが……私と、貴女が、こうして今、転生し別の人間となっているのに記憶を保持している理由、です」
『何らかの理由があって記憶を持ったまま転生してしまった。』
なんて、
「……嘘吐き」
私自身も、人の事を言えぬ程の嘘吐きではあるが。
何を言っても終始応えの帰ってこない通話を、再び溜息を吐いて……一方的に切った。

[860 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[431 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[492 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[171 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[369 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[274 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[193 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[134 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[47 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[116 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[1 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[24 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[72 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
暗い部屋のなか、不気味な仮面が浮かび出る。
マッドスマイル
乱れた長い黒緑色の髪。
両手に紅いナイフを持ち、
猟奇的な笑顔の仮面をつけている。
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マッドスマイル 「――世界の境界を破り歩いてはその世界の胎児1人を自らの分身と化し、 世界をマーキングしてゆく造られしもの、アダムス。」 |
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マッドスマイル 「アダムスのワールドスワップが発動すると分身のうち1人に能力の一部が与えられる。 同時にその世界がスワップ元として選ばれる。スワップ先はランダム――」 |
女性の声で、何かが語られる。
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マッドスマイル 「・・・・・妨害できないようね、分身。」 |
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マッドスマイル 「私のような欠陥品でも、君の役に立てるようだ。アダムス。」 |
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マッドスマイル 「・・・此処にいるんでしょ、迎えに行く。 私の力は覚えてる?だから安心してね、命の源晶も十分集めてある。」 |
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マッドスマイル 「これが聞こえていたらいいけれど・・・・・可能性は低そうね。」 |
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マッドスマイル 「絶対に、見つけてみせる。」 |
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マッドスマイル 「そして聞こえているだろう、貴方たちへ。 わけのわからないことを聞かせてごめんなさい。」 |
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マッドスマイル 「私はロストだけど、私という性質から、他のロストより多くの行動を選ぶことができる。」 |
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マッドスマイル 「私の願いは、アダムスの発見と・・・・・破壊。 願いが叶ったら、ワールドスワップが無かったことになる・・・はず。」 |
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マッドスマイル 「・・・これってほとんどイバラシティへの加勢よね。 勝負ならズルいけど、あいにく私には関係ないから。」 |
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マッドスマイル 「アダムスは深緑色の髪で、赤い瞳の小さな女の子。 赤い服が好きだけど、今はどうかな・・・・・名前を呼べばきっと反応するわ。」 |
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マッドスマイル 「それじゃ・・・・・よろしく。」 |
チャットが閉じられる――