
—5月某日—
複数人の足音。女の話し声。
「廊下は声が響くから静かにな」
「はいはい」
その言葉さえ廊下に響かせながら部屋の主と3人の客が602号室に帰宅した。
池田なずな
可憐そうな見た目をした握力55kg。
バンドのドラム担当。Eno.1172
忍
長身痩躯の美女だが、気が小さい。
池田なずなの幼馴染。バンドのベース担当。
四葉
剛気で義理堅い性格。洋楽かぶれ。
池田なずなの幼馴染。バンドのギター担当。
荻
常識知らずだが天真爛漫な愛され上手。
池田なずなの幼馴染。バンドのボーカル担当。
「よし、じゃあ早速探すか!彼氏の痕跡!」
部屋に上がるなり四葉が切り込んだ。
忍はポッと頰を赤らめて「見つかったらどうするの…」と呟き、
荻は四葉に同調して「おーっ!」と声を弾ませた。
「だから違うっつうの」
買い出ししてきた食料を冷蔵庫に詰め終わった家主が反論する。
男性を部屋に上げたことは事実なので、彼氏ではないとしか言えないのが辛いところだ。
口では探すと言ったが、四葉も荻も実際に部屋を漁ることはなく、
せいぜい触らなくても見える範囲をじっと観察する程度に留めてくれる。
ただ、忍のスウェットが『何故か』少し伸びてしまったことは割れていた。
「確かにちょっと伸び……伸びてる?」
「ん〜〜ちょっとだけ」
「何度も着たってことはなさそだよ?」
「ハンガーで伸びた説も成り立たなくはないか?」
「え〜〜でもねぇ……」
「もういいじゃん…あんまり色々分かるとこれ着てること恥ずかしくなっちゃう……!
なずなのベッドとか見れなくなっちゃう!」
「エロい妄想してんなよ忍!!」
二人にまとわりつかれている忍は少し迷惑そうだが楽しそうにワイワイやっていた。
勝手にやっている3人を放っといて家主はテーブルにグラスと麦茶やジュースを置く。
「何から食べる?」
「するめ」「ポテチ」「チョコレート」
三者三葉にさっき買ってきたものを言ってくる。
もう勝手に出して食え、と言って食糧が入ったスーパーの袋を荻に渡した。
荻は全部出せばいいのに自分の食べたいものだけを出して、袋を忍に「はいっ」と渡している。
忍が気を利かせて自分と四葉のぶんを出し、家主のなずなにも何を食べるか尋ねた。
「ゴリゴリくん梨味」
「おい何ひとりでアイス行ってんだよ!ずるいぞ」
「荻もゆきみるく大福食べたい!」
「もうアイスも全部出そっか」
結局ほとんど全部の食糧をテーブルに出して、4人はだべり始める。
「なずなはもうすっかりこっちの人だね」
忍が寂しそうに言った。
こんな時、忍は可愛い奴だなぁと、なずなは羨ましく思う。
自分にはこんな物言いは出来ない。
「そう?」
「うん、なんか変わった」
「だね!なんか大人っぽくなった気がする」
「自分じゃ分からんなあ」
「失恋の傷も癒えたっしょ、さすがに」
「うん、さすがに。殆ど思い出さなくなってきたわ」
「そういやヤマトさん元気にしてんのかなあ?」
「あ、あたし一回バイトしてるとこ行ったよ」
「なんのお店?」
「スタバ」
「うわぁ……」
どちらかというとマイナスのニュアンスが込められた呟きを漏らした。
彼のポテンシャルでそんなところでバイトなんぞしたら、
無駄にモテて無駄なトラブルが起きそうだ。
無論彼に非は無いのだが。罪作りな男よ。
ついでにその色男のバリスタエプロン姿やら、
彼女さんにコーヒーを差し出している姿などなどを想像してみる。
「……うん。今いろいろと想像したけど全然平気だった」
「お!よかったねー!」
荻がハイタッチを求めてきたので応じる、苦笑。
「やっぱこういうのは時間が解決するもんだねー」
「良かった、ほんとに。」
「ご心配おかけしてすみませんでしたねぇ」
大袈裟なくらい嬉しそうにする3人に、どんだけ心配されてたんだよとこそばゆくなる。
そうして4人で笑った。
「つうわけで、そろそろこっちに越した本当の目的を達成せんと」
「あーマッチポンプ異能の調査?」
「誰がマッチポンプ米屋だ」
「それって病院いくの?」
「ん。学校で訊いたら、病院と大学の研究機関に行けってさ」
「へーなんか本格的だね…そんな場所、怖くない?」
「大丈夫だよ、解剖される訳じゃないし」
「でも詳しく調べてもらえそうで良いじゃん!なずなガンバレ!」
「おー、頑張るわ」
………………………………………………
何故だろう?
バレンタインの頃はあんなに辛かったのに。
寝ぼけてハートのドーナツを作ってしまうくらい参っていたのに。
今でも似た背格好の人や、似た雰囲気の人にドキドキしてしまうことはある。
あの人との共通項というより、単純にタイプなんだろう。
廃棄したハートのドーナツと一緒に憑物が落ちたのだろうか、
溜め込んでた気持ちを全部誰かに吐き出したみたいにすっきりしている。
勿論そんな記憶は無い。
夢から醒めたみたいだ。

[822 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[375 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[396 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[117 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[185 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
アンドリュウ
紫の瞳、金髪ドレッドヘア。
体格の良い気さくなお兄さん。
料理好き、エプロン姿が何か似合っている。
ロジエッタ
水色の瞳、菫色の長髪。
大人しそうな小さな女の子。
黒いドレスを身につけ、男の子の人形を大事そうに抱えている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
 |
アンドリュウ 「ヘーイ!皆さんオゲンキですかー!!」 |
 |
ロジエッタ 「チャット・・・・・できた。・・・ん、あれ・・・?」 |
 |
エディアン 「あらあら賑やかですねぇ!!」 |
 |
白南海 「・・・ンだこりゃ。既に退室してぇんだが、おい。」 |
チャット画面に映る、4人の姿。
 |
ロジエッタ 「ぁ・・・ぅ・・・・・初めまして。」 |
 |
アンドリュウ 「はーじめまして!!アンドウリュウいいまーすっ!!」 |
 |
エディアン 「はーじめまして!エディアンカーグいいまーすっ!!」 |
 |
白南海 「ロストのおふたりですか。いきなり何用です?」 |
 |
アンドリュウ 「用・・・用・・・・・そうですねー・・・」 |
 |
アンドリュウ 「・・・特にないでーす!!」 |
 |
ロジエッタ 「私も別に・・・・・ ・・・ ・・・暇だったから。」 |
少しの間、無音となる。
 |
エディアン 「えぇえぇ!暇ですよねー!!いいんですよーそれでー。」 |
 |
ロジエッタ 「・・・・・なんか、いい匂いする。」 |
 |
エディアン 「ん・・・?そういえばほんのりと甘い香りがしますねぇ。」 |
くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
 |
アンドリュウ 「それはわたくしでございますなぁ! さっきまで少しCookingしていたのです!」 |
 |
エディアン 「・・・!!もしかして甘いものですかーっ!!?」 |
 |
アンドリュウ 「Yes!ほおぼねとろけるスイーツ!!」 |
 |
ロジエッタ 「貴方が・・・?美味しく作れるのかしら。」 |
 |
アンドリュウ 「自信はございまーす!お店、出したいくらいですよー?」 |
 |
ロジエッタ 「プロじゃないのね・・・素人の作るものなんて自己満足レベルでしょう?」 |
 |
アンドリュウ 「ムムム・・・・・厳しいおじょーさん。」 |
 |
アンドリュウ 「でしたら勝負でーすっ!! わたくしのスイーツ、食べ残せるものなら食べ残してごらんなさーい!」 |
 |
エディアン 「・・・・・!!」 |
 |
エディアン 「た、確かに疑わしい!素人ですものね!!!! それは私も審査しますよぉー!!・・・審査しないとですよッ!!」 |
 |
アンドリュウ 「かかってこいでーす! ・・・ともあれ材料集まんないとでーすねー!!」 |
 |
ロジエッタ 「大した自信ですね。私の舌を満足させるのは難しいですわよ。 何せ私の家で出されるデザートといえば――」 |
 |
エディアン 「皆さん急務ですよこれは!急務ですッ!! ハザマはスイーツ提供がやたらと期待できちゃいますねぇ!!」 |
3人の様子を遠目に眺める白南海。
 |
白南海 「まぁ甘いもんの話ばっか、飽きないっすねぇ。 ・・・そもそも毎時強制のわりに、案内することなんてそんな無ぇっつぅ・・・な。」 |
 |
白南海 「・・・・・物騒な情報はノーセンキューですがね。ほんと。」 |
チャットが閉じられる――