
━━side冴流━━
ハザマへとやってくるその度に、わたしはほんの束の間まだ冴流のままで思考することができる。
けれど、ハザマのわたしの体内にはまだカタストロフィリアの眷属の証である何かが留まっている。頭の中に響く心地の良い彼女の声を聞くうちに、わたしはまた以前の『フィリア』と同じように……いや、ここではいつも以上に彼女の声がよく聞こえるのだ。抗い難い魅力のある言葉。わたしはそれに導かれるままに出会うものを取り込み、ねじ伏せていた。苦痛に感じることはない、それが正しいのだと彼女は囁くし、彼女の感情こそがわたしの感情だと思えるほどにハザマのわたしとカタストロフィリアは強く結びついていた。
……まだ、わたしは自力で思考できている。彼女の声が脳内に満ちるその前に、わたしはイバラシティでの思い出に想いを巡らせていた。
━━わたしが死を迎え、そして冴流として意識を取り戻したその翌日の教会での出来事。
カタストロフィリアとの繋がりが切れたわたしには、もう声が聞こえなくなっていた。だけど、そんなことは初めてで、わたしはこれからどうすれば良いのか途方に暮れていたのだ。どんなに苦しい思いをしたとしても、導いてくれるその声を信じていればよかったのに。それがいきなり失われた。
だから、わたしにはどうしても必要だったのだ。自分を導く何かが。
それであんな弱音を吐いた。自分の望みもやるべきことも、わからないのだと。
きっと、自白だとか自首を求められていたとしても自分はそれに大人しく従っただろう。あの時のわたしは追い詰められていて、どうしても助けて欲しかった。なんでも良いから、こうすべきだと導いて欲しかったのだ。
けれど、メキシコサムライはそんな求めていたものを与えてはくれなかった。
ただ、わたしの苦しみは誰にでもあるものなのだと。みんな同じなのだと言われただけ。
だから、ますます恐ろしくなった。わたしはこれからもずっと何もかもをわからないまま間違い続けて苦しみのたうちまわりながら生き続けなくてはならないのか?どうしてそんな酷い仕打ちを受けなくてはならない?
わたしはただ、報われたかっただけなのに。これまで、苦しくて怖くて痛くてそれでもいつかきっと報われるのだと信じて必死にここまで生きてきたのに。もう嫌だ、わたしはこれ以上苦しみたくなんかない。
ただそれだけ。それしか望んでいないのに、なんでそれすら叶わないのだろう?
そんな思いで頭がいっぱいで、わたしが必要とされているというそんな話にはほとんど気が回らなかった。
けれど、苦しんでいるのはわたしだけでないというのは事実だ。きっと、一人でうだうだ悩んでいる程度のわたしの苦しみなど、誰かに傷つけられている人たちと比べれば取るに足りない些細なものでしかないのだろう。
彼らヒーローにとっては、わたしのような人間は救いの手を差し伸べる対象ではない。わかり切っていたことだ。
それに、わたしはリエトを傷つけた。ヒーローの仲間を。だとすれば、きっと目の前の男が望んでいるのは
『仲間の敵討ち』なのだろう。わたしがここで哀れっぽく助けを乞うのは間違っているのだと、彼はそう言いたいのだ。憎むべき敵として振る舞って、そして報いを受けろと。きっと、そう言いたいのだ。
……だから、わたしは無理矢理に笑顔を作った。あまり悪役らしく振る舞うのはできなかったかもしれないけど。
本当は死にたくなんかない。刀を、銃を向けられるのは恐ろしかったけれど、でもこれで楽になれるならきっとそれを受け入れるべきなんだ。死ぬのは怖い。でも、自分が楽になれる方法なんてこれしかないんだって諦めるしか。
ほんとはやだよ。わたしだってもっとましになりたいんだよ。でもどうなったら今よりましだって言えるんだろう?
どうすれば今よりまともになれるんだろう?わかんないよ、そんなの。
幸せになりたいなんて、高望みはもうしない。とっくに諦めてるから。わたしにはそんなの無理なんだよ。
なのに、ねぇ。どうして今更わたしを助けようとする手が。
わからないよ、わたし。わたしは彼をどこまで信じていいの?
どうせ裏切られるんだって、そんなのわかり切ってるのに。まだ信じたい、助けてほしいなんて諦め切れないわたしが嫌いだ。そのくせ本音を口に出せない自分が嫌で、信じ切れない自分が嫌いだ。
こんなぐちゃぐちゃになってぼろぼろになったわたしなんか、いなくなってしまえば良いのに。
ぽたぽたと涙が落ちて、地面を濡らす。
━━泣かないで、愛しい子……
優しい囁きが聞こえてきた。ああ、もう。結局わたしのことを救ってくれるのは、この人しかいないんだ。
カタストロフィリア。わたしを作った神さま。わたしの主人。……イバラシティのわたしはもう、彼女の声を聞くことはできないけれど。それなら、このハザマでわたしは彼女のために尽くそう。
彼女の願いが世界を滅ぼすことだとしても……苦しむわたしを楽にしてくれるのは、この人だけなのだから。

[816 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[370 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[367 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[104 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[147 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
チャット画面にふたりの姿が映る。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・怖いだろうがよ。」 |
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エディアン 「・・・勘弁してくれませんか。」 |
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白南海 「ナレハテってあの!アレだろォッ!!?ドッロドロしてんじゃねーっすか!! なんすかあれキッモいのッ!!うげぇぇぇぇうげえええぇぇぇ!!!!!!」 |
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エディアン 「私だって嫌ですよあんなの・・・・・ ・・・え、案内役って影響力どういう扱いに・・・??私達は関係ないですよね・・・????」 |
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白南海 「あんたアンジニティならそーゆーの平気じゃねーんすか? 何かアンジニティってそういう、変な、キモいの多いんじゃ?」 |
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エディアン 「こんな麗しき乙女を前に、ド偏見を撒き散らさないでくれます? 貴方こそ、アレな業界の人間なら似たようなの見慣れてるでしょうに。」 |
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白南海 「あいにくウチはキレイなお仕事しかしてないもんで。えぇ、本当にキレイなもんで。」 |
ドライバーさんから伝えられた内容に動揺している様子のふたり。
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白南海 「・・・っつーか、あれ本当にドライバーのオヤジっすか?何か雰囲気違くねぇ・・・??」 |
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エディアン 「まぁ別の何か、でしょうね。 雰囲気も言ってることも別人みたいでしたし。普通に、スワップ発動者さん?・・・うーん。」 |
ザザッ――
チャットに雑音が混じる・・・
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エディアン 「・・・・・?なんでしょう、何か変な雑音が。」 |
ザザッ――
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白南海 「ただの故障じゃねーっすか。」 |
ザザッ――
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声 「――・・・レーション、ヒノデコーポレーション。 襲撃に・・・・・・・・いる・・・ 大量・・・・・こ・・・・・・死体・・・・・・ゾ・・・・・・」 |
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声 「・・・・・ゾンビだッ!!!!助け――」 |
ザザッ――
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「ホラーはぁぁ――ッ!!!!
やぁぁめろォォ―――ッ!!!!」 |
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エディアン 「勘弁してください勘弁してくださいマジ勘弁してください。 ホラーはプレイしないんですコメ付き実況でしか見れないんですやめてください。」 |
チャットが閉じられる――