
──この子は恥ずかしがり屋だから──
──この子もそうって言ってます──
……小さなころからずうっとそう。
周りの大人はいつだって、僕の気持ちを代弁していた。
僕が言おうとするその前に。
もしか、言ったとしたところ。
──それはありがたい事なんだ──
──よかったわよね、嬉しいわよね──
だから、小さな頃に最初に気がついた事は
僕の気持ちや思ったことは、みんなは求めていないって事だった。
自分の気持を言わないことのそれだけを、みんなはきっと求めていたから
きっと僕は、それを言ってはいけなかったんだろう。
周りの大人たちはいつもそう。
僕の事をただ、良い子だからとそう言っていた。
──あなたは大事な役の子なのよ──
──それは名誉な事だから──
自分の言葉を言わないでいると
まるでつま先から順番に、消しゴムをかけてゆくみたいに
だんだんすうっと身体が透明になっていって。
そのまま誰にも、自分にも。きっとそうして見えなくなって
そこに自分なんて居ないような、そんな心地になってゆく。
いっそう、そのまま本当に、僕というものそれごとに消えてしまえれば。
それは、どんなに、良かっただろうに。
残って最後にいつもそう。
自分の想いが消え切らなくて
結局、だけど僕は透明にさえもなれはしない。
細くて小さなゴム切れみたいな、黒く汚れたそんな想い。
そんな物だけが、白くになった紙にただ残される。
ぬいぐるみみたいに空っぽの、自分だけが。
何か言葉を言う度に否定されるのが苦しくて
だから黙って逃げていた。
一人静かになりたくてただ
何もからも全部。全部。全部から
そうして、逃げてしまいたかった。
だから──────
……思い返したなら
逃げて行く事ばかり、僕は選んできたかもしれない。
いっそう、そのまま本当に、消えてしまえればどんなに良かったのに。
自分の想いが消え切らなくって。透明にさえもなれはしなくって。
宙ぶらりんに何処にもいれずに。
そうして今になってさえ、宙ぶらりんにここに居る。
──きみも、笑えよ──
宙ぶらりんのここからじゃあ
今度はどこへ逃げればいいんだろう。
今となっては、もう、何にもわかりはしないのに。
やっぱり
自分の想いだけ、それだけが
いつまでたっても、消えてはくれない。
……あぁ。でもね。
みんなの事は。母さんの事は。
君が思うほど、僕は恨んでいないんだ。
ただ、せめて
ほんの少しだけでも良かった、だから
僕を愛して欲しかった。
ぬいぐるみでもなんでもなくて
細くて小さなゴム切れみたいに
黒く汚れていたってそれでも
きっと本当の僕のこと
誰かに愛して欲しかった。
それだけ。
僕が思っていた事って言うのはね。
本当に、それだけ、なんだよ。
……。
…………あ、はは。

[787 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[347 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[301 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[75 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
画面の情報が揺らぎ消えたかと思うと突然チャットが開かれ、
時計台の前にいるドライバーさんが映し出された。
ドライバーさん
次元タクシーの運転手。
イメージされる「タクシー運転手」を合わせて整えたような容姿。初老くらいに見える。
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ドライバーさん 「・・・こんにちは皆さん。ハザマでの暮らしは充実していますか?」 |
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ドライバーさん 「私も今回の試合には大変愉しませていただいております。 こうして様子を見に来るくらいに・・・ですね。ありがとうございます。」 |
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ドライバーさん 「さて、皆さんに今後についてお伝えすることがございまして。 あとで驚かれてもと思い、参りました。」 |
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ドライバーさん 「まず、影響力の低い方々に向けて。 影響力が低い状態が続きますと、皆さんの形状に徐々に変化が現れます。」 |
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ドライバーさん 「ナレハテ――最初に皆さんが戦った相手ですね。 多くは最終的にはあのように、または別の形に変化する者もいるでしょう。」 |
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ドライバーさん 「そして試合に関しまして。 ある条件を満たすことで、決闘を避ける手段が一斉に失われます。避けている皆さんは、ご注意を。」 |
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ドライバーさん 「手短に、用件だけで申し訳ありませんが。皆さんに幸あらんことを――」 |
チャットが閉じられる――