
[SIDE:H]
ところどころに傷みの見える、アスファルトの道。
進行先の指針も決まり、次の目的地を目指す道中。
ペンギンを小脇に抱え、前を行く大きな背の後ろで少女は、先の戦いの事を思い出していた。
……負けた。
散々に翻弄された挙げ句、力尽きてしまったのだ。
最後に覚えているのは、狼の吼え猛る声と、それから幾度もの衝撃──
次に気付いた時には、狼たちの姿も消えていた。
幸いな事には全員どうにか無事、どうやら彼らもそれ以上追ってはこないようだった。
(……これまでよりも危ない場所だから…って、気を付けてはいたつもり、…だったんだけど…)
それでも、現実は予想以上に厳しかった。
攻撃はことごとくかわされ、逆にこちらはジリジリと削られていく。
しかもそんな中、主な攻撃手を任されている自分が、真っ先に倒れてしまった。
不甲斐のなさに、そっと唇を噛む。
(…私が、もっと……
ううん、せめてもう少し強く…上手く、立ち回れたなら…)
そう、身に余るような力でなくていい。そんな力は、欲しくはない。
ただでさえ、この世界で増す異能の力には恐ろしさすら覚えている。
…けれど、せめて。
(…せめて、ミランさんと館長さん、自分を守れるくらいの…)
無論、一人でどうこう出来るなんて事は、到底思っていない。
二人の助けに支えられているからこそ、どうにか切り抜けられているのだ。
しかし、だからこそ自分ももっと、二人を支えたかった。
出来うる事ならば、危険は避けて進みたい。
だが、ここでは避け切れない場面が必ずあるという事は、もう知っている。
(……それに、──)
二つの陣営。影響力。──侵略。
負けてしまう事で、その先にどう影響が及ぶかわからない。
ここではない日常が、やっと出来た大切な居場所が、家族が…
赤い空に飲み込まれ、失なわれてしまうかもしれない。
堪えきれず、ふるりと首を振る。
(……や、…そんなの、いや…!)
「──サツキちゃん」
知らず俯きかけたところで名を呼ばれ、ハッと顔を上げる。
はい、と慌てて返事をすれば、ほら、とミランが指差す先に、広がる緑が見えた。
「道路はここらで終わりだな、草原が見えた。
もう少し歩いたら、休憩入れよう。それまで大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。歩きやすい道でしたし」
極力疲れや不安を感じさせないよう、そう笑顔で頷き返すと、逞しい腕に抱えられた一羽にも声を掛ける。
「…館長さんも、もう少し頑張ってね?」
「…ギャイー…」
不承不承、といった微妙な不満声にちょっと笑い、そうして一向はまた、次の目的地へと歩き出した。
・・・・・・・・・
《余談》
草(…テクテク…サクサク…)原
「…………(…ジッ…)」
「…?(…な、何か視線が腕に刺さる…?)
サツキちゃん…どうかした?」
「…(ポソ…)きんにく…(もしかして私にもこのくらいあれば、もっと…こう…)」
「…へっ?」
「…(ハッ!?)!…い、いえあの!違っ…なな、ナンデモナイデス…!!」

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――