yoscya / 01
あの日私達は面倒な手合いに追われて、追い詰められて、殺しての連続だったのは記憶している。
普段と変わらない日常であるのは間違いないのだが、一つ普段と違う事があったとしたならば、それはベノムが ――… もとい、ドラクラが私を庇って倒れて、いつまで経っても起き上がらなかった事だ。
私は敵を殺した後に彼を起こそうとしたのだが、起きる事はなかった。
つまりは死んでいた。
不死の化け物でも死ぬ事があるのだと呆然とした後、私は確か、自殺をした。
もう既に殆ど化け物に成り下がっていたが、彼が死ねるのであれば私も死ねる筈だと考えていたのだろう。
何より私はもう、一人では生きていけない。
彼が居ない生活なんて想像したくもなかった。悲しいのかは分からない。
ただ、それは私にとって非常に耐え難いものだというのだけはハッキリと分かっていた。
結果としてどうなったかと言えば、ご覧の有様だ。
気付けばきらきらと明るい世界に居た事もあった。あの時のドラクラは楽しそうだった。私も彼が楽しければそれで十分だった。だからこそ憎い記憶だ、あの日々は、憎くて仕方が無い。元の世界に戻されてドラクラの死体を揺すり起こしていたところから再び始まって、けれども頭の中には平和に過ごしていた日々の記憶が残っているなんて耐えられなかった。
結局、耐えられなくなった私はあの後も彼の後を追い、再び逃避したのだった。
……今回居る場所は、私の視界と直感が働くような場所だ。
平和な場所ではなく、慣れ親しんだ薄暗さが満ちた世界。
どうにもハザマだとか何だとか説明された気がするが、正直事情なんてどうでもよく、とにかく私達は元の世界と同じ立ち位置な 『悪役』 であるのだけ分かれば十分だ。分かり易い立ち位置は好ましい。
人を殺して回った狂信者と人を家畜のように扱っていた吸血鬼。
私達は非常に分かり易い悪役として元の世界で生きて来た。よって今の状態は実に気楽だ。
だって、所詮この夢もいつかは醒める。
幸福な夢を見て現実との落差に嫌気がさして自殺してしまうぐらいならば、後味の悪い夢を見てどうしようもない現実へ醒めて戻ってから諦めと共に自殺した方が、幾分マシだ。
幸福そうに見える世界に対する憧れもあるが、あの世界で過ごす事になったとしても 現実のドラクラと過ごしている訳ではない。醒めない夢を、ただひたすら繰り返すだけ。そんな無意味な事は流石に私だって望んでいない。
あくまで、彼は彼だから良いのであって、幸福であろうと現実でないのならば無意味で、無価値なものだ。やっぱり私はあの世界が嫌いだ。現実の自分の境遇が、より一層惨めに感じる。憎たらしい。ずるい。どうしてあっちの世界の私は幸福に暮らして、甘やかされて構われて、彼と良く似た人物に手を引かれて色々な場所で思い出を作ろうとしているの。お前がそうやって過ごせば過ごすだけ私は惨めな気分になるのに。惨めな気分になるぐらいならば、あんな世界は無い方がずっといい。あの世界の私なんか死んでしまった方がいい。死んでしまえばいいのにな。私と似た誰かの癖に自殺しないのはおかしい。死んでしまえよ!彼と思い出を作っていいのは私だけなのに!誰かを引きずり込んでやろうという気持ちはないけれど、私はあの世界が憎くて仕方が無いから、あの世界の誰かに手を貸したくはない。滅んでしまえばいいんだよ、何もかも。全部嫌いだ。全部、なくなってしまえ。
……ドラクラは相変わらず記憶が無いらしい。自分が死んだ事を理解していない。
薬のやり過ぎで思考が緩くなっていたのは分かっているものの、今回もか。
経緯を説明して彼がどういう表情をするのか、私は怖くて考えたくなかったので、今回も嘘をついた。きっと彼の事だ、私の言う事を信用して、適切に受け止め、出来る限りの働きをしてくれるに違いない。
どうだって、どうにだってなる。
彼は私を信頼していて、慕っていて、常に一緒に居てくれた。
きっとこの世界でもそれは一緒だ。
そうじゃないと、困る。一緒がいい。一人は怖い。
―― ああ、私のドラクラ。
この世界でも私は君の首輪の鎖を握って離さない。
だから、君も もう何処にも行かないでおくれ。
やがて醒める悪夢だとしても、少しだけでも、私達は一緒でいなくちゃ駄目なんだ。