ずっと、ずっとそうしてきた。
『良い子』でいるように。『真面目』でいるように。『優等生』でいるように。
父さんや母さんから、周りから、そう望まれたから。
だから自分は、良い子でいつづけた。良い子でいて、何か衝突しそうなことがあったらこちらから身を引いて謝って。
そうしていれば、皆いい顔してくれる。そう、これが『正解』だと。
ずっと、ずっと思っていた。



誰かが噂していた。父さんは大学に行けなかった、と。
誰かが言っていた。母さんは昔色々あった、と。
誰かの声が聴こえた。あの子は可愛そう、と。



別に、その事に対して何の感情もなかった。
父さんも母さんは、良い子でも真面目でも優等生でもなかった。
だから自分の子だけはそうならないように。反面教師と解釈していた。
だって、誰だってそうだ。
自分の子に悪い子になれ、不真面目でいろ、グレてしまえなんていう親なんてそうそういないだろう。
だから、これは親の愛なのだと。自分の事を思っての事だ、と。
そう思い今まで生きてきた。

記憶が流れ込んでくる。
ああ、そうだ。全て思い出した。

あの彼は、幼馴染でも恋人でも何でも無い。



そう、全くの他人だ。幼馴染はもっと、別の誰かが居たような気がする。
幸い、『あっち』の自分はその事に気づかずに振る舞っているようだが。
この世界でも、そうだったら。本当に幼馴染で、恋人だと思えたのならば、楽だったのに。
どうして思い出してしまったんだろう。ずっと夢見れたままだったら、よかったのに。

それでも、行かなきゃならない。
自分は確かにここにいる。ここに存在している。『明石 染香』として、ここにいる。
そして自分がいる世界は今、侵略されようとしているらしい。


世界はこんなにも大変な事になってる。だとしたら、誰かが困っているかもしれない。
手を差し伸べなければならない。そして彼を探さなきゃならない。
彼だって、きっとそうだ。『恋人』として傍にいて、侵略の魔の手から守らなければならない。
きっと彼も一人で不安がっているだろう。


────そう、走らなくてはならない。困っている誰かのために。
だって、それこそが、優等生のすることだろう。
だから演技し続ける。ポーズを取り続ける。
ワガママで不真面目な自分なんて、必要とされていない。


求められているのは、『人助けが趣味な優等生』で、




『幼馴染の恋人』なのだから。

▲	燻る灰の匂いと、一枚の紙。 ──貴方が送った手紙の裏面に、文字が刻まれている。 炎か何かで文字を書いたのだろう、筆跡は焦げ色。所々後ろからでも穴が空いている それが望んだ宛先に届くのかは、分からないけれど

	見つける■　探す　 　ぜったい　必■　 　■■が　何者でも　良■　 　　　好■■　 　■■■、 ■■ ■■

	貴方がそれを見つけ、一通り目を通す頃には灰となってしまうだろう……

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