……ここはどこなんだろう。





赤黒い何かが俺の視界を覆っている。
邪魔だ。どかそうとして腕を伸ばす。
が、身体の自由がきかない。何かに囚われているのか？
ぬるりとした感触。生温い温度。どれも気持ちが悪い。
不快感を振り切らんとばかりに、言葉を漏らす。


名前を呼んだ。
俺が追いかけたあの子の名前を、呼んだ。

---

否定の世界に堕とされた俺はグズグズに腐っていった。

「なんで俺がこんな目に」
「荒れ果てた世界で、生きる意味なんてあるのかよ」





日を増すごとに荒廃する俺の心。
まるでこの世界──アンジニティと同じだな。
自嘲。堕ちて当然のメンタリティだ。

身も心もどろどろに融けていった。
ま、こんなクソみてえな世界にいたんじゃあ無理もないよな。誰だって腐る。

エディアンからの召集があったのはその少し後だ。

俺が侵略行為に参加した理由？
そんなの、暇潰しだ。逆に言うとそれ以外に理由がない。
どうせここを脱したところで、生きていてもしょうがないからな。

『人生は死ぬまでの長い暇潰し』とはよく言ったもので。ホントその通りだと思ってたよ。





──この人に出会うまでは。

俺はこの人に付いていこう、そう思った。強く願った。ただただ使命感を感じた。
まるでパズルのピースが嵌め込まれるような感覚。
どろどろの身体が型に流しこまれて成形されるようだった。

運命ってのはきっとこういうことを指すんだろうな。
理由？ そんなモンねーよ。
一目惚れにいちいち理由なんて要らないだろう？

だけど、これはきっと恋じゃない。
俺が感じたのは……

---

しばらくして世界線のリセットが告げられる。
ちょっと待ってくれ。どこからリセットされるんだ？

……侵略開始から？

それじゃ、俺は。
侵略前の俺に戻ってしまったら、俺は。
俺は、また……？

…………。

---

俺は禁忌を犯した。

世界線の移動。元居た世界で得た禁術。
アンジニティなら使えるヤツはゴロゴロ転がるくらいにいるであろう、逆ポピュラー術だ。

禁術さえ知らなければ、きっと俺はアンジニティになんか堕とされなかった。
だけど……堕とされていなければ彼女に出会うこともなかっただろうから。






『堕ちた理由』をもって『生きる理由』を追いかけた。

──砂漠に滴る一滴の雫を。
──闇夜に光る一点の星を。
俺は、追いかけたんだ。

いいよな？ それくらい。

---

再度のワールドスワップを経て、俺は──『三科ミナの兄』になった。
『そういうこと』になっていた。

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