
スニーカーの靴底にこびりついた赤いドロドロを踏みにじるように地面に擦り付ける。
あんなゲームに出てくるモンスターじみたのが侵略者だったら気持ちも楽だったろうな、と思う。
白……銀色?の被毛の、獣が混じった姿をしたヒト。
アイツが侵略者――アンジニティ側の一人らしい。
通常の人間から離れた姿になる異能の大半は「変化」系だ。
その上で体型が人間や動物に近い形態を取るグループはあまりそれ以上の大きな変化はせず、
主に腕力や脚力といった身体能力の強化を行う傾向がある。
当然別の異能が似た形で発現していることもあるから、
安易な断定はせず、相手の異能を注意深く観察しなければならない、らしい。
……それが何? 異能者同士で戦った経験なんてないのに考えてどうなる?
知識だって昔受けさせられた護身術の講義で聞きかじった程度しかない。
だいたい「イバラシティの住人基準」で判断するのも危ないんじゃないか?
もともと住んでいた世界が違うのなら、他に何が違ったっておかしくないのに!
イバラシティの全員がここに呼ばれたわけじゃない。
あの人混みから考えても、ベースキャンプ周辺のイバラシティ側は1000人にも満たないだろう。
カタギに見えないアイツの言う話を信じるなら、更に「イバラシティ側は数で有利」「不戦勝も多い」。
元々アンジニティだったヤツらを含めても……ざっと1500人程度?
そんな中に私が「選ばれてしまった」ことになる。
それはまあ、よりによって私か、という気持ちはある。
異能戦の経験なし。そもそも異能が戦闘向きじゃない。人をブッ倒すつもりで殴ったこともそんなにはない。
アンジニティ側と直接やり合うのは避けて支援に徹したほうがいい。そうした人員も必要だ。
もしも似た立場の他人から判断を任せられたなら、そう答えるだろう。
それでも、「選ばれた」のなら、やる。やるならやれるだけやってやる。
戦って勝ち取らないといけなくて、代表の一人として今その場にいて、すぐ近くに「敵」がいる。
こんな状況で後ろに引っ込んで人任せにするなんて無理に決まってる。それが私だ。
つーかイバラシティが勝ったときには何かないわけ?
こっちが負けたらイバラシティを追い出されるのに? 向こうははい負けました侵略失敗残念! でおしまい?
いや理不尽じゃん。なんかムカついてきたな。
武器――辺りの瓦礫から引き抜いてきた手頃な木材――を持つ手に力を込めた。
腹は決まった。そうなると他にも考えることはたくさんある。
まずは目の前のアイツをぶん殴ってからだ。